【短編オリジナル小説】ハリガネハチマキの明日は来ないと思え vol.4

ショートコント「風邪」

診察室にいる医師と患者。
どちらも深刻な様子。

【キャラ】
医師:荒巻
患者:張本

前回はこちら

医師は険しい顔でカルテを見ている。
患者は緊張の面持ち。

患者「先生、どうなんでしょうか?」
医師「ええ。いや、まあ、」
患者「いえ、先生。はっきりと仰って下さい」
医師「いいんですか? え、言っちゃいますよ」
患者「いいですから。お願いします。逆に体に障ります」
医師「ほんとにいいんですね。後悔しても知りませんよ」
患者「どうぞ」
医師「ではお伝え致しますが、和風ハンバーグです。おめでとうございます」

医師拍手。
若干の間。

患者「え?」
医師「聞いてなかったんですか? もう一回言いますよ」
患者「はい」
医師「和風ハンバーグです。おめでとうございます」

医師、拍手を数回したがすぐに患者に止められる。

患者「えええ、いいからいいからそれ。鬱陶しい」
医師「もう少し喜んだらどうなんですか? ハンバーグがお嫌いですか?」
患者「すみません。それはなんですか? 私のカルテでは」
医師「ああ、これ。入院患者の食事メニューです。借りてきちゃいました」
患者「診察はどうした? え、病院食がどうとか今関係なくないか」
医師「何を言っているんですか。食事上手ければ入院が長引いてもいいでしょう」
患者「入院、長引くんですか?」
医師「何でそのことを?」
患者「今先生が言ったんですよ!」
医師「知りません」
患者「健忘症かよ」
医師「とにかく、落ち着いて下さい」
患者「一体なんの病気で俺はどうなるんですか?」
医師「それは…」
患者「それは?」
医師「ああ、明日は鮭のホイル焼きですよ」
患者「入院食のメニューから離れろよ」
医師「味はいいんです」
患者「どこの回し者だよ」
医師「デザートだってつけますからそんなに落ち込まないで下さい」
患者「風邪じゃないんですか?」
医師「誰から何を聞かされたんですか?」
患者「市販薬が全然効かないから病院に来たんですよ」
医師「知識がない人が勝手に病気を決めつけないように。これだから素人は」
患者「で、そろそろ言ってくださいよ」
医師「なにを?」
患者「病名」
医師「え、言ってませんでした?」
患者「まだ」
医師「だから風邪ですよ。さ、入院の手続きしちゃいましょ」
患者「風邪なのに」
医師「風邪だから」
患者「ほんとに」
医師「おいしいですよ。入院食」
患者「ほんとは?」
医師「だから風邪だって。しつこいな君も。私が風邪だって言ってんだから風邪ってことにしておきなさいよ。家族の皆さんだって私に黙っててと言うからね、そりゃあ、ああ、まあ、分かりましたとか何とか言ってその場は乗り切りましたよ。家族の人はいいですよ。私は赤の他人ですよ。それなのにこの嘘をつかないといけないっていう苦悩。あなたはちっともわかろうとしない!」

間。

患者「えーと、すみません。ちょっとトイレ」
医師「廊下出て右ね」

患者、はける。
医師、カルテを眺めていて。

医師「あ、これ次の患者さんの。…よし。気持ち切り替えていこう。次の方」

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