ショートコント「風邪」
診察室にいる医師と患者。
どちらも深刻な様子。
【キャラ】
医師:荒巻
患者:張本

医師は険しい顔でカルテを見ている。
患者は緊張の面持ち。
患者「先生、どうなんでしょうか?」
医師「ええ。いや、まあ、」
患者「いえ、先生。はっきりと仰って下さい」
医師「いいんですか? え、言っちゃいますよ」
患者「いいですから。お願いします。逆に体に障ります」
医師「ほんとにいいんですね。後悔しても知りませんよ」
患者「どうぞ」
医師「ではお伝え致しますが、和風ハンバーグです。おめでとうございます」
医師拍手。
若干の間。
患者「え?」
医師「聞いてなかったんですか? もう一回言いますよ」
患者「はい」
医師「和風ハンバーグです。おめでとうございます」
医師、拍手を数回したがすぐに患者に止められる。
患者「えええ、いいからいいからそれ。鬱陶しい」
医師「もう少し喜んだらどうなんですか? ハンバーグがお嫌いですか?」
患者「すみません。それはなんですか? 私のカルテでは」
医師「ああ、これ。入院患者の食事メニューです。借りてきちゃいました」
患者「診察はどうした? え、病院食がどうとか今関係なくないか」
医師「何を言っているんですか。食事上手ければ入院が長引いてもいいでしょう」
患者「入院、長引くんですか?」
医師「何でそのことを?」
患者「今先生が言ったんですよ!」
医師「知りません」
患者「健忘症かよ」
医師「とにかく、落ち着いて下さい」
患者「一体なんの病気で俺はどうなるんですか?」
医師「それは…」
患者「それは?」
医師「ああ、明日は鮭のホイル焼きですよ」
患者「入院食のメニューから離れろよ」
医師「味はいいんです」
患者「どこの回し者だよ」
医師「デザートだってつけますからそんなに落ち込まないで下さい」
患者「風邪じゃないんですか?」
医師「誰から何を聞かされたんですか?」
患者「市販薬が全然効かないから病院に来たんですよ」
医師「知識がない人が勝手に病気を決めつけないように。これだから素人は」
患者「で、そろそろ言ってくださいよ」
医師「なにを?」
患者「病名」
医師「え、言ってませんでした?」
患者「まだ」
医師「だから風邪ですよ。さ、入院の手続きしちゃいましょ」
患者「風邪なのに」
医師「風邪だから」
患者「ほんとに」
医師「おいしいですよ。入院食」
患者「ほんとは?」
医師「だから風邪だって。しつこいな君も。私が風邪だって言ってんだから風邪ってことにしておきなさいよ。家族の皆さんだって私に黙っててと言うからね、そりゃあ、ああ、まあ、分かりましたとか何とか言ってその場は乗り切りましたよ。家族の人はいいですよ。私は赤の他人ですよ。それなのにこの嘘をつかないといけないっていう苦悩。あなたはちっともわかろうとしない!」
間。
患者「えーと、すみません。ちょっとトイレ」
医師「廊下出て右ね」
患者、はける。
医師、カルテを眺めていて。
医師「あ、これ次の患者さんの。…よし。気持ち切り替えていこう。次の方」