クレープを食べ終わった僕たちは、太陽が向かう方へと足を進めた。
きっと二人ともどこに行くかなんてわからなかったんだと思う。

「二階堂さん」
「うん?」
「二階堂さんはいつからUMA(未確認生物)を追っているの?」
「いつかな。でも物心ついたときにはもうはまってたわ。私の愛読書教えてあげようか?」
「なに?」
「月刊ムー」
僕はああ、と納得しながらその雑誌名を聞いた。
「なにそのあーってのは。今月発売の特集なんてまさによ。『怪獣UMA大研究』もうあがるわぁ」
「濃いいよ、二階堂さん」
「今度貸してあげるわ」
「うーん、うん」
聞いたことがないようなマイナーなUMAの名前を挙げていく彼女は
教室で見ている彼女とは別人のように活き活きしていた。
「今、笑った?」
「え?」
「私を見て笑わなかった、タカナシくん」
どうやら僕はうっかり二階堂さんを微笑ましく見ていたようだ。
笑ったとなると誤解につながりやすいことは高校生の僕にでも分かる。
「違う違う。なんだか得した気がしたものだから」
「何を?」
「いや、他のクラスメートはまだ二階堂さんの一部分しか知っていないんだなぁって思って」
「見せる必要はないから見せないだけよ」
「じゃあ、なんで僕に見せてくれるの?」
「それは」
「クレープを頬張って鼻にクリームをつけちゃう二階堂さん。
UMAの話を楽しそうに語ってすたすたと歩いていく二階堂さん」
「だからね」
「今日だけで色々な二階堂さんが出てきたよ」
二階堂さんは答えを探していた。
別に大きな動揺を見せるわけではなく、ちょっとだけ困った風に眉間に皺を寄せる彼女。腕を組んで、肘を擦ったりしてみせる。どこか幼い、親に怒られてすねている少女のようにも見えた。
「何?」と彼女は不機嫌を装って僕に尋ねる。
そこで僕は気づく。ああ、そうか、と。