【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.15

「ちょっといいかな?」と登校した僕に近づいてきたクラスメートの熊井さんは眉間に皺を寄せながら聞いてきた。僕はまだおはようすら言っていないというのに。

前回はこちら

「おはよう。熊井さん。どうしたの、そんな怖い顔をして」
「人の顔に対するクレームは聞かないでおいてあげるわ。それよりも噂になってるんだけど」

噂。僕は何一つ思い付く事ができず「?」を頭やら顔やらに浮かべてみた。それは熊井さんが求めているものではなかったのか、「ちょっと来なさい」と言って廊下に連れ出された。

引っ張って行かれるままに僕と熊井さんは朝の屋上へとやってきた。人はいないけど気をつけないといけない。ここでの会話の音量によっては階下の教室の窓が開いていた場合、丸聞こえだということ。

「どういうことなのか説明してくれる?」
「チョット待って。えーと、説明を求めたいのは僕の方なんだけど」

熊井さんはまだ眉間に皺を寄せたままだ。皺がぎりぎりと音を立てて、いつか「私は怒っている」と言いそうな幻想にとらわれる。全く馬鹿げた妄想だ。

そんな僕の妄想に熊井さんは気づいたのか大きなため息を吐いた。

「あのね、登校して間もないから分かっていないかもしれないけど、皆が、タカナシくんを見る目が昨日と違っていることに気づかない?」
「全然」
「でしょうね」
「でしょうねと思うなら教えてよ。何が起きているのか」
「ひとつ教えて。昨日、放課後、何処にいた?」

まさしく刑事ドラマである。

「おお、刑事みたいだ。ということは僕は容疑者だな」
「誤魔化さないで。真剣に聞いているんだけれども」
「ごめんなさい。えーと昨日。ちょっとお出かけ」
「ちょっとお出かけ。どこに?」
「何を疑われているのか」
「いいから教えなさい」
「わかりましたよ刑事さん。3つ隣の駅に行ってました」
「何をしに?」
「散歩?」
「何で自分のことなのに疑問符」
「僕も僕のことがわからない年頃なんでね」
「わかりました。では最後に伺います。誰と3つ隣の駅に行きましたか?」

僕は言葉を失っていた。ああ、なるほど、そういうことか、と。

「どうしました。誰と行ったかは覚えていますよね、容疑者タカナシ!」

とてもめんどくさいことになったなと正直なところ思った。そしてそれは恐らく彼女にも迷惑が及んでいる、あるいは及ぶことになるんだろうと思った。

「誰と行ったかを話すと何かしら解決するんだっけ?」
「解決するっていうか、ひとまず事態の把握を行いたいのよ」
「うーん、僕が誰といたかってのは大体わかっているんだね?」
「まあ、名前はあがってる」
「そうかぁ。だとすると僕はそれを認めるとして問題は何?」
「噂が本当だとすると、あなた彼女のファンに袋叩きに遭うわよ」
「ほほう。それはまずいな。できれば回避したい」
「だから私が代表して確認しているの」
「なんで君が?」
「学級委員だからよ」
「答えになってないなぁ」
「はぁ? 立派な答えでしょうが」
「なに、学級委員だから噂の沈静化をしようと動いていると」
「そうよ。それのどこがおかしい?」
「おかしいだなんて言ってないよ。たださ、」
「だから何よ?」

僕は息を吸い込み、空を棚引く雲をちらっと眺めて言った。

「私があなた達のためにがんばってる感とかやめてほしいな」

熊井さんは僕からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったのだろう。言葉を失って呆然としていた。

「いいかな。もう教室に戻っても」

と質問したが、僕はもう熊井さんの言葉を待たなかった。

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