「二階堂さん、今日もデートしてくれないかな?」とタカナシくんは私にしれっと言った。
「タカナシくんさ」
「うん?」
「あれがデートだと思ったの? 私、デートに誘ったかな?」
「えーと、違った?」
「全然デートのデの字も出てなかったよね。むしろ帰り道険悪ムードだったよね」
「確かにそうだね」
「だからさ、あれをデートだとか言っている人はしっかり私達の会話を聞いた上で、最後まで見届けた上で判断してもらいたいわね」
睨んだわけじゃないけれど、私はクラスメートの中でこちらをちらちら見ている女性陣に向けて言った。タカナシくんは心なしか何故か寂しげな柴犬みたいな顔をして私を見ていた。
完全な沈静化がこれで図れたかというとそれはないと思っている。そこまで楽観主義ではない。でもやるべきことはやったつもりだ。タカナシくんが想定以上に落ち込んだ演技を続けているのは見ていて面白かったが、もしかしたら本当にショックなんじゃないかと思って、ああ、また自惚れてしまったと反省の念がむくむくと私の中で起き上がり、私をサンドバックよろしく連打し始めるのだった。
放課後になると私は鞄を掴み、一目散に教室を飛び出した。タカナシくんはと言えばもたもたと教科書を鞄に詰め込んでいたから暫くはやってこないだろう。
下駄箱で靴を履き替え、夕方までまだ時間があるので今日は何処に寄って行こうかと考えながら校門を抜けたところでタカナシくんに追いつかれた。
「二階堂さん」
「タカナシくん。あ、朝はありがとうね」
「何が? ま、こんなところで立ち話をしているとまた厄介なことになると思うので歩きながらでいいかな」
「うん」
前を歩くタカナシくんについていく形で私は数歩後ろを歩いていた。人の視線が今まで全く気にならなかったのに、今、とてつもなく視線が気になる。生徒の存在が気になる。ただクラスメートの1人と帰っているだけだというのに。全部朝のあの黒い三連星のせいだ。
「そういえばさ、朝のジェットストリームアタックはすごかったね」
「え?」
「あ、そうか。ごめん。ガンダムわかんないよね」
「違うの。えーと、ガンダムはわかるの。黒い三連星だなぁって、私も想像してたから。だから同じこと考えてたんだって思ったら」
「思ったら?」
「いや、まあ、そういうこと」
私はなぜ言葉を濁したのだろう。ただ同じことを考えていたから嬉しいって思ったって素直に言えばいいだけなのに。……
「で、今日は何処に行く?」
「タカナシくん。大事なお話があります」
ぎょっとした顔を一瞬した彼に私は切り出す。
「中間試験の結果はどうだった?」
「ん? まあまあ」
「まあまあというのは? 曖昧な回答は好きじゃない」
「えーと中の下ぐらい」
「それはまあまあとは言いません」
「ごもっとも」
「では期末試験の対策はどのぐらい出来てる?」
「んーまぁ……正直手付かず」
「よろしい。じゃあ、二階堂先生が勉強を見てあげるわ」
「え、なんで?」
「だって補習とかで夏休みが潰れたら」
「う、うん」
私はにやりと笑って、言葉を続けた。
「未確認生物を探しに行けなくなるでしょう?」
夏はすぐそこまでやってきている。