【短編オリジナル小説】ハリガネハチマキの明日は来ないと思え vol.7

ショートコント「雨天」

バーベキュー前日。朝倉と橘は翌日のBBQを前にそれぞれの思いを抱えて過ごしていたが。

【キャラ】
朝倉役:荒巻
橘役:張本

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電話をしている橘。

橘「そうそう。でさ、あれ、何の話だっけ? ああ、明日のあれね。で、どうするどうする。もしさもしさ25人前の食材準備してたら。ウケるよなぁ。絶対記憶に残るよな。だってこの前だって、なんだっけ、ピザパーティーするからピザ注文しといてって言ったらさ10人前注文してるんだよ、家に行ったらさ。うん。ま、俺が、10人で行くから注文しとけって言ったんだけどな。で実際行ったのが。そう。3人。10人前どうすんだよって感じで。…うん、ああ、わかってるって。どうせ明日は雨らしいからな、中止だろうな。ああ、じゃ、朝倉に連絡してみるわ。はい、はーい」

エプロン姿で手には野菜と包丁を持って出て来る朝倉。
橘、朝倉に電話をかける。
※橘家と朝倉家というエリア設定。

朝倉「えーと、と、と、と、ちょっと待ってよ。今手が放せないんだからさぁ」
橘「出ないな。おーい留守かーい、居留守かーい。って携帯だろってーの」
朝倉「空気よめないかな。俺、今忙しい。早く切れよ」
橘「俺、こういうのしつこいからなぁ。出ろ出ろ出ろ!」

朝倉、持っている野菜に包丁を刺して片手で電話に出る。

朝倉「はい。しつこい」
橘「しつこいじゃなくて橘だけど。今暇だろ」
朝倉「暇なわけ無いだろう。明日の準備があるんだからさ」
橘「準備たって別にレジャーシートぐらいだろ」
朝倉「ばかばかばか。そんなバーベキューの何が面白いんだよ。一発かますようなやつ頼むぜって言ったのお前だからな」
橘「そうだっけ? ま、それはいいとして、じゃあ今何中だったんだよ?」
朝倉「仕込みだよ、仕込み」
橘「ふーん、なんの?」
朝倉「それお前に言ったら明日俺がじゃじゃーんって登場した時には参加者全員に知れ渡ってるだろうがよ。言わねーよ」
橘「信用ねーな、俺。で、仕込みって?」
朝倉「だから言わねぇってーの。それよりもホントに島谷さん来るんだろうな」
橘「え?」
朝倉「今回俺と島谷さんのキューピッドになるって言ったじゃんか」
橘「あああ、そうそうそう。さっきな、お前に電話掛ける前にさ、島谷と電話してたんだよ」
朝倉「え、え、え、え。それ早く言えよ。っていうか、島谷さんって呼べよな。何で呼び捨てなんだよ」
橘「だって高校から一緒だから。別に下の名前を呼び捨ててるわけじゃないんだからいいだろうが。細かいやつ嫌いだってよ」
朝倉「……」
橘「泣くなよ」
朝倉「泣いてねぇよ」
橘「まあ、明日は楽しみだねぇって話でさ」
朝倉「おお。いい感じじゃん。で?」
橘「で?」
朝倉「だから俺の話は?」
橘「なんで?」
朝倉「なんで?」
橘「いや、ただ、楽しみだねぇって言っただけだけど」
朝倉「明日の前に種まかないと。芽が出てこないよ、芽が」
橘「なに、お前。俺にどこまで手伝ってもらいたいの?」
朝倉「どこまでもだよ。どこまでもだろ」
橘「やだよ。高校時代のクラスメートとお前結びつけるとか。気持ち悪くて笑えるよ」
朝倉「いいよ、笑えば。でもやることやってもらわないと、だろ」
橘「だから、明日はお前が一発かまして、まあ素敵って言ってもらって、俺がそれをサポートして二人きりにするみたいなことだよ。計画としては」
朝倉「待て待て待て。雑すぎる」
橘「はぁ? やってもらうだけいいだろう。何もしないぞ」
朝倉「違う違う。どうやって二人にできるんだよ」
橘「それは例えばお前、明日料理担当だろ? 折角調理師免許までもってるんだから」
朝倉「ああ」
橘「で、俺がお前も手伝ってやったらってそそのかすわけよ。もうこれでカップル成立。成果報酬を下さい」
朝倉「雑。ざつーーー。ざーーーつーー」
橘「なにが」
朝倉「ホントにそれで島谷さんが手伝うと思うのか。嫌よ、包丁なんて持ったことない。とか言われて終わるぞ」
橘「あのさ、なんなのお前の島谷像。どこぞのお嬢様みたいになってるけど。あいつそんなにやわじゃないからな」
朝倉「お前が何を知っているんだ。は、まさかぁ。お前、ひょっとして元カレとかじゃないだろうな」

間。

朝倉「なんだ、今の間は!!!!」
橘「電波が。あれちょっと聞こえますか?」
朝倉「その態度、うわぁ、え、うわぁ、これまじか、まじだぁ」
橘「気にすんなって。大したことじゃない」
朝倉「大したことあるって。え、どこまで」
橘「どこまで?」
朝倉「き、き、き、キスまで、とか」

間。

朝倉「電波ぁ。電波ぁぁぁ」
橘「だからお前たちにとってはこれからじゃないか、な、これからのこと考えろって」
朝倉「そんな慰めいらねぇよ。うわぁ、なんか色々ショックだわぁ」
橘「でさ、明日なんだけど。雨天中止なんだけどさ」
朝倉「はぁぁぁぁぁ。聞いてねェェェ」
橘「ま、言ってないからなぁ」
朝倉「どうすんだよ。この食材」
橘「25人前買っちゃった?」
朝倉「当たり前だろ。明日すぐ調理できるように野菜とか切ったりしてんだよ」
橘「まあ、食えばいいじゃない」
朝倉「食えばとかそういう話じゃないじゃない!」
橘「野菜炒めとかすればいいだろ。つーかどうせ明日バーベキューの予定入れてる奴らは暇してんだからお前んち行くよ」
朝倉「四畳半だろうがぁ。床抜けるわ。大家に追い出されるわ」
橘「野菜ぐらいでわめいているようじゃ、島谷の心はつかめないぞ」
朝倉「野菜じゃない!」
橘「なにが?」
朝倉「どうすんだよ。あの鹿」
橘「鹿?」
朝倉「明日一発やれって言うから、鹿の解体ショーでもと思って、山で捕獲してきたんだよ。どうすんだよ」
橘「山に返せよ」
朝倉「俺の一発がなくなるだろうが」
橘「雨だろうが。中止だろうが」
朝倉「キューピッド」
橘「泣くな喚くな」
朝倉「わかった。もうこの鹿、島谷さんの家に送る。住所教えろ」
橘「馬鹿か。まとまるものもまとまらなくなる」
朝倉「じゃあ、どうするんだよ。鹿。朝倉」
橘「それにあいつ、肉食わないぞ」
朝倉「は? なんだよその新情報」
橘「あいつ動物愛護精神がすっげぇ強いベジタリアンだからさ」
朝倉「俺、もう坊さんにでもなるわ」
橘「ああ、それが一発ってのは面白いかもな」
朝倉「面白がってんなよぉぉぉ」

橘モノローグ『翌日は雨だった。街中で鹿を散歩させてる男という写真がインスタやTwitterで賑わいを見せたらしいが、俺には関係ないことだ。それがもし朝倉だったとしても、関係のない、ことなのだ』

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