【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.21

梅雨だから雨が降る。僕は雨が嫌いだ。何故か理由もなく悲しい気持ちになるから。

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期末試験はついに始まった。始まったからと言っていつものように手応えがなかったわけじゃない。数日とは言ってもかなり範囲を絞り込んだ、二階堂さんの出題予想模擬試験は高確率で実際の試験でも出題されたのだ。残念なことに僕の脳みそは数学のように暗記だけでは何ともならないやつにはことごとくやられたものの、赤点だけは回避出来たのは奇跡と言えた。

「来週には梅雨明けるんだってね」と熊井さんが僕に話しかけてきた。

あの日屋上で話してから、結構な時間が経った気がしたものの、なかなか会話をするきっかけがないままだった。

「まあ、明けない夜はないって言うからね」と僕がふざけ調子で言うと、
「だせぇ」と熊井さんは鼻を摘んで、眉間にシワまで寄せて言った。

それで氷解するぐらいには彼女と僕の関係は築けていた。何せ中学から同じなわけだから。中間一貫校でもないのに何という偶然なんだろうと高校に入学して彼女を見かけた時は思ったものだ。

「ださくないっつーの」
「で、次は止まない雨はないとか言い出すんでしょ。くさいくさい」
「で、どうだった、テスト?」
「人に尋ねる時は自分からでしょ。でも大丈夫だったみたいね、数学」
「どこでその情報を。お主、忍びだな」
「やめてよ。真面目に言ってるの」

と取り合ってくれない熊井さん。

「まあ、赤点だけは回避できたねぇ。よかったよかった」
「二階堂さんに感謝しないとね」
「え?」
「一緒に勉強してたんでしょ」
「どうして知られてるんだか?」
「隠さないね」
「隠してほしかった?」
「…そうね、隠してほしかったかも」
「何で?」
「別に。他意はないわ。で、少しは勉強する気になったの?」
「どうだろうね。でも二階堂さんと勉強してたってのは違うんだ。一方的に教えてもらってたから。わざわざプリントまで作ってもらってね」

熊井さんは笑っていた。でもその笑顔に僕は、何でだろう、とても違和感を覚えたのだ。その違和感の正体を僕が知ることになるのはまだ先のことなんだけれども。

「じゃあ、さ。お礼しないとね。二階堂さんに」
「確かにそうだ。彼女のお陰で夏休みが補習で潰されずに済んだわけだから」
「何か考えてるの? どうせ考えてないんでしょ?」
「決めつけるのはよしたまえよ。って、その通りです、どうかお知恵を拝借」

彼女は再び笑っていた。こんなこと、前にもあったなぁと過去の記憶を遡っていた僕に、熊井さんは言った。

「よし。了解した。放課後、付き合ってもらうわよ」と。

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