【短編オリジナル小説】ハリガネハチマキの明日は来ないと思え vol.10

ショートコント「新人」

【キャラ】
先輩(ノノミヤ)役:荒巻
新人(タミヤ)役:張本

前回はこちら

先輩「えーと、今日から一緒の職場で仕事をしてくれることになりました、自己紹介」
新人「タミヤです」
先輩「私はノノミヤって知ってるよなぁ。こうやってここではうざがられております」
新人「僕は何処に座ればいいですか?」
先輩「そうそう。そんなうざがられている先輩の真横の席に座ってくれたまえよ。ははは」
新人「はい」
先輩「なんだなんだ、朝から全然元気がない。元気は家に置いてきたのかな?」
新人「そうですね」
先輩「よし、まあ仕事をちゃんとやってくれればいいからさ。このテンションは私だけで十分だしねぇ」
新人「なんでもやりますので何かあれば言って下さい」
先輩「お、いい心意気だね。じゃあ私の肩でももんでくれるかな」
新人「別にいいですけど」
先輩「嘘だよ嘘。冗談じゃないかさぁ。パワハラとか言われてクビになっちゃうよ、私が。ははは」
新人「あ、人事の人からこれ読んでおいて下さいって渡されたんですけど」
先輩「ああ、セキュリティに関する冊子ね。午後にならないとPCも来ないみたいだし、すぐにできそうな仕事もないし、いいんじゃない。ま、誰も読んでませんけど」
新人「まずくないですか、それ」
先輩「まずくないまずくない。だってこれ読むでしょ。テストするでしょ。赤点取るでしょ。廊下立っとれぇぇ、って言われないでしょ。学生じゃないんだから」
新人「でも追試だって言われましたよ。それに評価にも影響があるって」
先輩「そうなの? やばいじゃん、私がヤバイじゃん」
新人「まさか取引先のファイルとか家に持ち帰ってないですよね」
先輩「えーと、それは、クイズでしょうか。間違ったら廊下に立たされるやつでしょうか?」
新人「立たされませんけれど。何か廊下に対してトラウマがあるんですか?」
先輩「別にないけどさぁ。おとなになってから立たされるとか恥ずかしいなって」
新人「で、どうなんですか?」
先輩「いや、まあ、仕事終わらない日とかはあるし、休日は出社しないで家で仕事してるし。資料がないと出来ないし」
新人「え、ダメ社員の典型じゃないですか」
先輩「違う違う違う。違うよ。仕事量がパないから終わらないんだよ」
新人「え、やめたいんですけど」
先輩「入社早々にやめたいとか言わないでよ」
新人「僕は定時で上がってのうのうと生きていくつもりでこの会社に入ったんです。社畜になるつもりで入ったんじゃないんです」
先輩「なんかさらりとすごいこと言った気がするけどさ、それはひとまず横においておくけど」
新人「のうのうと生きて、ハッピーな老後を送るんです」
先輩「送れるよ。ハッピーな老後を送るために今を生きるんだよ。しゃちくるうんだよ」
新人「しゃちくるうってなんですか。え、そんな今は断固として拒否します」
先輩「私だって拒否したいんだよ。何でこんな会社に入ってしまったのかって後悔しかない。仕事量に比べて給料は安いし。残業はしていないように打刻しろって言われるし、休日出勤には目をつぶるって言うし」
新人「ブラックじゃないですか」
先輩「ブラックだよ。私はやめようと思っているんだ。社長にあったら、こんな会社、もうこりごりだ、他に仕事はあるんだ、やめさせて下さいって言うつもりなんだ、そのために君を中途採用したんだ」
新人「それはどういう意味で…」
先輩「生贄だよ」
新人「言ったよ、え、そこはオブラートに包むかなんかしなさいよ」
先輩「もういいよ。包まないよ。ありのままを見せちゃうよ」
新人「見たかないよ。最後まで我慢して隠し通してくださいよ。僕、契約上3ヶ月は働かないといけないんですから」
先輩「これがここの現実だ! じゃ、私、これから辞表書くから静かにしてね。はい、生贄さんを皆さん温かく迎えてあげてくださいね」

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