【短編オリジナル小説】猫も大概ヒマじゃない vol.15

かき氷を食べて帰宅した私をにたにたと笑いながらソファに座って待っていたのは、本当はお墓で眠っていないといけない明奈だった。

「おかえり」

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「ただいま」とは言ったものの恐らくその笑顔はすべてを見通しているのではないかという表情であり、自分から話し始めるというのは墓穴をまさに掘る行為と感じた。

「ここに座りなさい」と明奈に言われるままに腰を下ろす私。まるで従順なペットのようだ。

「さぁ、報告報告。私はそれを待っていたのよ」
「報告しないでも知られている感じがするんですけど」
「まあ死んでからどうも予知というか千里眼みたいなのが開発されてるからね」
「開発とかやめなさいよ」
「なにが? まあいいわ。でもね見えている部分と見えていない部分とがあるから、あなたからの話を聞かないと私のヴィジョンの正しさってのは立証されないわけね」
「話すことなんて、なにもないよ」
「ずるいです」

私はその言葉を聞いてぎくっとした。それはさっき美冬ちゃんに言われた言葉そのものだったから。

「ずるいですずるいですずるいです。……3回だっけ?」
「見えてるじゃないか。聞こえているじゃないか」
「立証できました。あなたははぐらかしたわけね」
「仕方ないでしょ。何て答えればよかったのさ。ありがとう?」
「怒らないでほしいな。私、別に当事者じゃないからさ」
「関係なくないでしょ」
「関係ないよ。関係持ちたくても私、もう、死んでるんだから」
「ごめん」
「ごめんじゃないよ、全くさ」

私と美冬ちゃんは墓参りを済ませて、結局はかき氷を食べた。彼女はレモンを、私はブルーハワイ。昔から彼女はレモンを選ぶ。甘酸っぱいのが好きらしい。食べている間、どちらも氷をかきこんで、頭がキーーーーーンとさせながら無言で食べ進めた。

「なるほどね。で?」と報告が済んで明奈は言った。言われたからと言って言葉はない。自分がこれからどうしたいかなんだろうけれど、こっちはこっちで離婚して、元カノの幽霊と同居しているような状況。じゃ、次に進みます、なんて言えるだろうか。否、言えまい。

「あのさ、私が出ていけばいい?」
「それは関係ない」
「本当に?」
「ああ」
「ほんとにほんとにほんとに?」
「しつこい」
「あ、そ」
「まだ無理だから。うん、もう少し時間が欲しいな」
「いつまで?」
「長いかもしれないし、短いかもしれない」
「じゃあ、夏が終わるまでには答えだしてね」
「それ、すっごい短くない?」
「私の気が短いのはあなたも知っているでしょ?」

そう言って髪をかきあげ、そっぽを向く明奈の姿はとても懐かしく、私は知らず知らず彼女がまだ生きていたころのことを思い出していた。

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