【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.30

家で飼っているネコのハミルトンとベンジャミンに餌をやって家を出た私は、電車に乗って待ち合わせをしている駅へと向かった。きっとあの子は彼のことを……

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ガタンガタンと規則正しいリズムを刻んで電車が進む。私はぽつりぽつりと空いた席に座るでもなく立ったまま、窓外の景色が流れていくのを見送った。

「ねえねえ、知ってる? 隣のクラスのシバタくんさ、3組の木下さんと付き合ってるらしいよ」

という声のする方に何気なく視線を向けると、部活なのか、制服を着た女子高生、私と同じぐらいの少女たちが辺りを気にすることなく喋っていた。その声の大きさに近くに座っていたおじいさんがびくっと眠りから覚めた様子。ご愁傷様です。

「あ、知ってる知ってる。それ加奈子から聞いた」
「私も加奈子から聞いたんだけど、あの子どっからそういう情報拾ってくるんだろうね」
「ねぇ~」
「でもさでもさ、本当なのかな、この話」
「なんでなんで?」
「だってさだってさ、確か木下さんって1組のサクラギくんと付き合ってなかった?」
「えーえーえー。初耳」
「うそぉ。有名だよ、この話」
「全然知らなかった。マジで知らなかった」
「もし今も付き合ってるとしてさ、それって二股じゃん。二股っていいの?」
「いいわけないでしょ」
「だよねぇ」
「あーあ、彼氏欲しいぃ」
「だよねぇ」

という会話を聞き終えた私は電車を降りた。何であの子達は同じ言葉を繰り返すのだろうか。『でもさでもさ』『知ってる知ってる』とか。その繰り返した分の時間、別の言葉を言える。つまりは会話の量は同じでも中身は倍にすることが可能なのに。極論だけども。

二股ねぇ。それはよくないことだわ。うん。男ならどっちかに決めないと。それじゃないと女の子が不幸よ。でもそれでもいいって言う女の子もいるからなぁ。

駅の階段を一段ずつゆっくりとしっかりと下りる。踏み外さないように注意するように意識を集中する。改札が見えてきて、その先に見知った顔が見えた。タカナシくんと熊井さん。仲よさげに喋っている。

私はすっと手を上げると、タカナシくんがそれに応じるように手を上げて返してきた。私は熊井さんに視線を移す。じっと私を見返してくるその眼差しの強さに彼女の意思を見た気がした。

「二股っていいの?」と何故かさっきの女子高生の言葉が蘇り、反芻された。いいわけないじゃない。

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