【短編オリジナル小説】猫も大概ヒマじゃない vol.20

とても居づらい。生きた心地がしない。そんなシチュエーションってなかなか経験することはないなと思いながら興味深そうに美冬ちゃんを見ている美津を見て思っていた。

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そんなことを冷静に思っているのは余裕がある証拠だろう、と言われればそれまでだが、そうではない。人間というのは「嫌だな嫌だな、こんな状況嫌だな」とか念じて唱えれば唱えるほどに開き直る、そうか、これは冷静ではないぞ、よくよく考えれば私はもうこの状況に開き直っているのだ。

「ねえ」と美津が聞く。聞かれたのは私だ。私が答えねばなるまい。
「なに?」
「誰?」

誰。誰?

私はそっと美冬ちゃんを盗み見る。それはとても説明が難しくはないか。「知人」「友達」「よく行くバーの店員さん」「元カノの妹さん」……どれだったら美冬ちゃんを傷つけずに彼女と自分の関係を伝えられるだろうか。そしてこれ以上美津に興味を持たれないだろうか。と悶々と葛藤している中で私が考えたのは「二人とも名前が『美』から始まるんだな」ということだった。男というものは、いや、私という生き物は全く。

「ねえ、聞いてる?」
「聞いてるよ。あ、美冬ちゃ、…」
「ミフユチャ?」
「美冬さんです」
「ふぅーーーん」

なぜ「ふ」と「ん」の間をこうも伸ばすのか。伸ばしている時間が長ければ長いほどに見定められているような気がした。私達はまだそういう関係じゃない。…「まだ」と普通に使ってしまった自分自身に驚いた。「まだ」ってことは彼女の言葉をいつかは受け入れようとしているのだろうか、私は。

「どなたですか?」と今度は美冬ちゃんが尋ねる。
「えーと、彼女は美津さん」
「ふぅーーーん」

私は「ふーーーん」の狭間で道化のようにわたわたとしていると、
美津は何故このタイミングでそれを言うかという言葉を口にした。

「元妻ね」

美冬ちゃんの唇が「あ」という形に開いて止まった。

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