【短編オリジナル小説】猫も大概ヒマじゃない vol.24(最終話)
電車に乗っていた時から気づいていた。雨が降っていることに。 前回はこちら 車窓をこれ見よがしに叩いた大粒の雨。確かに私はビニール傘を持っていたはずなのだ。いつかどこかのコンビニあるいはどこかのキオスクで買ったものを。しか…
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電車に乗っていた時から気づいていた。雨が降っていることに。 前回はこちら 車窓をこれ見よがしに叩いた大粒の雨。確かに私はビニール傘を持っていたはずなのだ。いつかどこかのコンビニあるいはどこかのキオスクで買ったものを。しか…
「話しましょうか」と言われて暫く経ち、ただただ沈黙が続くので私は「コーヒーでも入れようか」と言ったが、彼女は短くこう答えた。「私、これでも死んでるからさ」と。 前回はこちら 墓穴を掘るというのはこういうことを言うんだろう…
告白の回答を今欲しいと年下の女の子からせがまれて、私は「わかった」と答えた。その答えに目の前の少女は納得してくれなかった。「わかった、…ってなんですか?」 前回はこちら 「え、だからその話はわかったってことでわかってもら…
「元奥様がこんなところで何をされているんですか?」と美冬ちゃんは言った。明らかに喧嘩腰である。 前回はこちら 「こんな所でって言われても、元々私もここに住んでいたからねぇ」と余裕を見せる美津。 その余裕感にイラッとさせら…
とても居づらい。生きた心地がしない。そんなシチュエーションってなかなか経験することはないなと思いながら興味深そうに美冬ちゃんを見ている美津を見て思っていた。 前回はこちら そんなことを冷静に思っているのは余裕がある証拠だ…
転勤の話が会社であった日の帰り、家に帰宅すると明奈は出てこなかった。恐らく客が来ていたからだろう。「あの、何してるの、ここで?」とソファに座っている元妻の美津に言った。 前回はこちら 「チョット待って、ほんとに何事、これ…
私は出社すると上司の安西さんに手招きされて会議室に。はて、何かやらかしただろうか。 前回はこちら 「転勤ですか!?」 「しーーー。まだ決まったわけじゃないんだから。ここ防音じゃないから」 「にしても突然過ぎるなと思いまし…
「どうして私だけじゃダメなの?」と言った明奈は今、目の前でソファに腰掛け、2時間ドラマの再放送を見ている。のんきなものだ。 前回はこちら 「それって面白い?」 「これ? 別に、面白いから見ているわけじゃないわ」 「じゃあ…
「私からサヨナラって言ってあげようか?」と明奈は言った。その思い出は全く色褪せずに私の中に在り続けた。 前回はこちら その時、明奈と住んでいた場所は今とは異なるわけだが、彼女はソファに座って窓の外の暗闇を見つめてそう言っ…
かき氷を食べて帰宅した私をにたにたと笑いながらソファに座って待っていたのは、本当はお墓で眠っていないといけない明奈だった。 「おかえり」 前回はこちら 「ただいま」とは言ったものの恐らくその笑顔はすべてを見通しているので…
蝉の声がうるさくなったが、私の耳は美冬ちゃんの言葉を捉えてしまっていた。「どういう意味?」などと聞いてしまったけれど、どういう意味なのか理解しているつもりだ。そういう卑怯さを自分の行為ながら情けなくなる。 前回はこちら …
明奈の墓前に着いた私たちは、お墓の掃除をして、水を墓石にかけて、線香をやった。 手を合わせ、ふと考えてしまった。自分は何を彼女に語りかけようとしているのかと。 前回はこちら 「ねえ、お兄さん」 「うん」 「何を話したんで…
確かに、今美冬ちゃんが手にしている麦わら帽子は彼女の姉であり元カノの明奈に買ってものだ。申し訳ない程度の大きさのリボンがついている。 前回はこちら 「ねえ、お兄さん。この帽子にまつわるお話してくださいよ。霊園に着くまでに…
元カノの墓参りに元カノの妹と来る自分は非常識だったりするだろうか。 前回はこちら 「じゃ、再来週でいかがでしょう?」と美冬ちゃんの提案した日は、あっという間に訪れた。 「へぇ、で、出かけるんだ」と明奈がソファに腰を下ろし…
「今度、お姉ちゃんのお墓参りに付き合ってくれませんか?」と美冬ちゃんが言うので、 「ああ、いいよ」と答えてしまったが…… 前回はこちら 明奈のお墓参りは以前一度だけ行ったことがある。 美冬ちゃんにも内緒での墓参りだったし…
お店の中は私達の気まずさを反映するように暗く、じめっとして居心地が悪かった。 前回はこちら そんな空気を察してかマスターの十河さんがパンッと手を打った。 「はいっ! 切り替えようか、そろそろ。美冬ちゃん、いつもの作って、…
あの子が泣いたり、へそを曲げたり、怒ったり、困ったりしたらね、 チョコレートをあげるといいの。と彼女が言っていたのを思い出した。 前回はこちら 美冬ちゃんはカウンターの中、チョコレートをエプロンのポケットにしまおうとした…
私とBar竹馬之友のマスター、十河さんが話をしていると、 入口の扉が開いて美冬ちゃんが入ってきた。 前回はこちら 「お疲れ様です」 「お疲れ」 という十河さんと美冬ちゃんの挨拶があり、私は彼女を見遣る。 彼女はマスクをし…
スーパーのレジは複数人体制で、列によっては若干早い遅いがあって、 自分が並んでいる列の進みがいいと、『あ、今日自分はついているかも』とか 思ったりするプチ占いみたいなことをやってしまう。 今日はと言えば、どうやらあまりラ…
玄関先にビニール傘を置き、上着をハンガーにかけて吊ったところで 否応なく押し寄せた疲れを受けて、私はソファに身を沈めた。 前回はこちら 結婚すると約束をした君、その約束をなかったことにしてくれと言った私。 赦されないこと…
美冬ちゃんのビニール傘を持った私は彼女が濡れないようにと傘の位置を探った。 前回はこちら 傘を持たないこと、多いんですか?」 「いや、まあ、なくはないさ」 「奥さんに迎えに来てもらえばいいじゃないですか? ずぶ濡れで帰っ…
駅の軒下。滴る雨。 私の隣で微笑む少女は私のことを「お兄さん」と呼んだ。その笑顔はとても……。 前回はこちら 「美冬ちゃん。今から?」 「はい。これから出勤です」 私の勤務時間は18時までで、これから誰も待つ者のいない部…
いつも思うことだ。手に提げている傘が邪魔だってこと。 前回はこちら 雨が降っているものの傘を使うのは家から最寄り駅までで、会社と駅の間は地下道を通るため傘を開くことはない。何とも忌々(いまいま)しい傘。二文字というのも気…
問題があったとすればそれは私だったのだろうと妻が置いていったティーカップを迂闊にも落として割りながら思うある日の朝。 こんなことを考えるのはそもそも何回目だろうか。何個割ったのだろうか。 そのような数を数えているほど暇で…