【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.2

夕方。街がオレンジに染まっている。この時間が私はとても好きだ。

電車の窓に映る自分を見る。時として窓は鏡になる。
其処に映し出されている私はとても疲れているように見えた。

「鉄仮面みたいだよね」と陰口を言われているのを迂闊にも聞いてしまったからというわけでもないけど、
確かにそうだなと思ったりした。なかなか言い得て妙である。

そう言えばさっき立ち寄ったコンビニのバイトさんもこんな疲れた顔してたっけ。
私がいつも使っているコンビニではないお店でフランクフルトを買ったレジの男性。

「そのフランクフルト、何も包まなくていいのでビニール袋にそのままつっこんで下さい」
って私が言ったのを聞いて、彼はぎょっとしたものの、客が言うことを「駄目です。汚いです」なんて
否定はできず、その驚いた顔のままつっこんでいた。

「それとその棒、邪魔なんで引き抜いちゃって下さい」と更に言ってのけた私に、
諦めにも似た表情を彼は見せた。

別に私は人を困らせたいわけじゃない。ただビニール袋に手を突っ込んで、
包装を外して、食べるという流れが気に入らなかった。

私はビニール袋に顔を突っ込んでそのまま電車の中であるにも関わらずフランクフルトを食べ始めた。
一口、二口と食べ進めていった時、不図誰かの視線を感じた。まあ、そんな食べ方をしている以上、人の視線を集めないわけがないと私自身思う。

誰だろうか、とあたりをきょろきょろ見回すのも行儀が悪い。何せ私は食事中なのだから。

私は窓を利用して同じ車両にいるであろう視線の主を探した。すぐにその主は見つかった。
見知った男の子が私を見ていた。見られていると彼は気づいてはいなさそうだ。

あれは確か同じクラスの男子。
古文と数学と、大抵の授業を睡眠学習しているタカナシくん。

熱心に私を見ているけど、特に立ち上がって私に声をかけようとは思っていなさそうだ。
私から寄っていって「今帰り?」なんて気さくに話しかけるのも変な気がしたので、私は黙って食事を続けた。

彼は私を見ている。私は食事をしている。
二人の視線は決して宙でぶつかることもなく。

そう言えば彼にまつわるだいぶ彼にとっては失礼な話を思い出した。
それは同時に同級生女子たちの無垢な残酷さを私に教えるものだった。

『古今東西、今まで会った人で一番の地味な人。』

それで名前があがったのが彼だ。
彼の名前が上がった瞬間にゲームは終わり、終始彼に対する地味な理由を上げ続けるゲームに変わっていった。私はただ聞いていただけだけど、共犯と言えば共犯なのだと思う。

彼はそんなに地味なのだろうか。私は疑問だ。
くりくりっとした瞳を輝かせて、こんなにじっと人を見てくるような男子が。

窓に映っているタカナシくんがそわそわしだした。
私に声をかける決心でも固めたのだろうか。

私は待つ。彼は来ない。
私は待つ。それでも彼は来ない。
私はもっと待つ。やっぱり彼は来ない。

しまいには電車が停まった。
私は下車した。彼は来ない。
彼の家はもう少し先のようだ。

ビニール袋を丸めてスクールバッグにしまうと、改札に向かった。
なんだか鼻の頭が無性に痒かった。マスタードでも付着しているのだろうか。

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