【短編オリジナル小説】ハリガネハチマキの明日は来ないと思え vol.8

ショートコント「ファミレス」

ファミレスでネタを作っている一組の芸人。なおこれはフィクションです。

【キャラ】
荒巻役:荒巻
張本役:張本

前回はこちら

ヤングジャンプを読んでいる荒巻。ネタをぶつぶつ独り言を言いながらノートに書いている張本。

荒巻「今週のヤンジャン読んだ?」
張本「昨日発売のやつか。まだ」
荒巻「そう」
張本「貸してはくれないのな」
荒巻「俺が今読んでるからな。それにマンガとかあまり興味ないだろう」
張本「そうでもないさ」
荒巻「じゃあ、最近読んだマンガなんだよ」
張本「…まじかる☆タルるートくん」
荒巻「…なに?」
張本「まじかる☆タルるートくん。二度言わせるな」
荒巻「いや、あまりに聞き慣れないというか、久方ぶりに聞いたタイトルだったからさ」
張本「いいぞ。タルるートくんは。何がいいかっていうとだな」
荒巻「いい、いい。ネタ、書き続けろよ」

張本、ノートに視線を落とす。

荒巻「俺さ、最近、映画の仕事とか多いじゃん」
張本「なんだよ、いきなり」
荒巻「役者の仕事とか増えてるじゃん」
張本「そういやそうだな。あ、この前出てたやつまだ行けてないや」
荒巻「川を流れる死体役な」
張本「それが蘇るんだよな」
荒巻「蘇って人を襲うっていうクソみたいな設定な」
張本「言い過ぎだろう。そんな映画たくさんあるし。俺は嫌いじゃない」
荒巻「俺が不満なのはさ、これだよ」

荒巻、ヤンジャンを張本に突きつける。

荒巻「この子。知ってるか?」
張本「ああ。最近グラビアでよく雑誌の表紙を飾ってるよな」
荒巻「俺が出たその映画の主役だよ。俺、会えるかなって思ったけれど会えなかった。なんだその待遇は」
張本「俺に言ってもしょうがないだろ」
荒巻「じゃあ誰に言えばいい。マネージャーか。監督か」
張本「でも会えたからってどうなるって話でもないだろう」
荒巻「会えないよりは会えたほうがどうにかなる確率は上がるだろう」
張本「まあ、実際会っても別に何もないけどな」

間。荒巻、静かにマンガを読み始める。張本、話が終わったと思ってノートに向き直る。暫くして。

荒巻「会ったの?」
張本「え?」
荒巻「だから会ったのかって?」
張本「会ったよ。雑誌の対談で。行ったらいた」
荒巻「名刺交換は?」
張本「彼女のマネージャーさんとは」
荒巻「本人とは?」
張本「名刺持ってないって言うから。メール交換ぐらいは」
荒巻「ふざけんなよ。え、なんで映画でも他の仕事でも俺には女性とからみがないんだ。不平等だ」
張本「お前の魂胆が見え見えだからじゃないの」
荒巻「魂胆とは?」
張本「お前、何かの雑誌の取材で答えてたろ。夢は女優と結婚することです、とかって」
荒巻「裏表のない性格がウケるんでしょうが」
張本「知らねぇよ。インタビューを婚活に利用すんな!」

間。

荒巻「紹介とかは」
張本「しない」
荒巻「仲介手数料払っても?」
張本「しないな」
荒巻「じゃあ、何すればいい」
張本「何かしたら紹介するってのはないから」
荒巻「ちょっと携帯貸してくれない。マネージャーに電話をかけないと」
張本「断る。お前がさっき漫画を読む前に見ていたのはなんだ?」
荒巻「スマートフォン。じゃなかった、あれはiPodだよ」
張本「だよ、じゃねーよ」

間。

張本「七夕だからさ」
荒巻「ん?」
張本「短冊にでも書いてお祈りしたらどうだ」
荒巻「そんな幼稚園児のやるようなこと俺がやると思っているのか」

と言いながら紙ナプキンを掴み、文字を書き始める荒巻。

張本「単純だな、お前って」

張本モノローグ「その願いが叶ったかは知らない。ただその翌日マネージャーから、アマゾンでの撮影の仕事引き受けたからと言われて、一日中ブルーになっていたのは彦星や織姫の計らいだったんじゃないかって思ってる」

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