【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.22

雨か。放課後。窓外で誰の許しを得てざーざー降っているのかは知らないけれども、私は雨が好きだった。

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子供の頃から雨になると傘もささずに家を飛び出したものだ。今はしないけれど。

テストも終わり、タカナシくんから赤点じゃなかったということ、他の科目も軒並み成績が上がったと報告を受け、十分な指導ができたとは思わないけれど、自分のことのように素直に嬉しかった。

成績が上がったのは私のおかげだとタカナシくんは言ったけれど、それは違うと思った。どんなに教えても前向きに理解しよう、とする姿勢がなければ教えても効果はない。つまりは勉強して結果が出たのは彼のがんばりゆえなのだ。私はちょっと手伝ったに過ぎない。

そんな頑張った彼にご褒美とまでは言えないけれど、ささやかな贈り物でもできればと思っていた私ははたと気づいてしまった。『同級生の男子にあげるもの』が全くわからないということに。今までそういうことすらしたこともないし、他に仲のいい男子もいないし、困った。困ったときは誰に相談すればよかったんだっけ?

と廊下で考えているとにやにやと笑みを浮かべて担任の境先生とでくわした。なるほど。担任というのは生徒の悩みに耳を貸す生き物だ、と判断した私はこう言った。

「テスト勉強で頑張ったタカナシくんに何かあげたいんですが、プレゼント的なものって何もらえたら男子は嬉しいですか?」と。

境先生はさらに笑みを大きくして、にまにまと笑い、腕を組んで考え始めた。

「そうだなぁ。俺の時代とは違うからなぁ」
「そんなに年齢違わないじゃないですか」
「それに俺はタカナシじゃない。好きなものとかもらえたら嬉しいし、好きな子からのプレゼントなら何だって嬉しいだろう」
「好きな子って。私は彼にとって友人の一人ですから」
「そうかいそうかい。わかったわかった。みなまで言うな」
「絶対わかってませんよね」

私は幾許かの不安を抱きつつ、役に立ちそうにない人物に話しかけてしまったことを今更ながら後悔していた。

「あ、もう大丈夫なので失礼します」
「って、話しかけてきたのは二階堂じゃないか。相談に乗ってやるよ」
「いえ、もう結構です。さようなら」

と何かぽつぽつと言葉を背中に浴びせられたものの、要領を得なかったのでそこに先生は残し教室に戻ってくると、タカナシくんのカバンはなくなっていた。ご褒美に何がほしいかこの際聞いてしまおうと思っていたのに残念だ。

教師も同級生も当てにならないとなれば、もう自分で探すほかない。どこに行けばそれが見つかるのか、それが何なのかわからないけれども、私は置き傘をロッカーから取り出し、教室をあとにした。

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