【短編オリジナル小説】万引き犯を捕まえたはいいが妹だった。第8話

バイト先のコンビニに出勤すると店長がにやにやして立っていた。朝から気持ちが悪い、もとい気味が悪い。

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結局昨夜は「どっきり」のプラカードを持った神様もしゃもじを持ったヨネスケも乱入してこなかったので、俺には解せない現実だけが突きつけられ、とりあえず妹には保留なとだけ告げて今日に至った。

「店長、どうしたんですか?」とスタッフルームで着替えながら聞いてみた。とりあえず返ってくる言葉を想像する。「売上が右肩上がりだよ」とかか。「万馬券が当たったんだよ」とか。

「聞きたい?」
「別にいいです。あ、でも万馬券のケースであれば今度何か奢って下さい。あるいは時給を上げて下さい」
「何さ、万馬券って。僕は競馬とかギャンブルやらないから。君も知ってるでしょ」
「ああ、じゃあ、宝くじとかでもいいです」
「あんな夢みたいなもの買わないよ。人間は地道に生き抜くことが一番さ」
「そうですか。じゃあ、興味が無いですね」
「って、そうなるとさ話ここで終わっちゃうじゃない。ね、終わっちゃうじゃない。終わらせないでよ。終わらないでよ」
「泣かないで下さい。俺のシャツで鼻かまないでください」
「そこに座りなよ。この僕に何が起きたのか教えてあげるから」
「教えてあげるからっていうちょっと見下ろす感じがとても嫌ですね」
「座って下さいませ。どうかどうかどうかぁぁぁ」
「じゃあ、2分だけ」
「短い」
「じゃあ1分」
「何で減るの。増やそうよそこは」

朝から店長のこのテンションに付き合うのは非常に疲れる。いかにして火の粉を振り払うかが重要だ。

「何があったんですか?」
「え、聞いちゃう? 本当に聞きたい?」
「ええ、とってもききたいです。わー、てんちょうのことだから、すんごいことが、あったんだろうなぁ」

どこぞのどへたくそ俳優も驚くであろう俺の棒読みも全く気づかれることはなく、にやにやする店長の薄気味悪さは増していき、何故かいつもは持っていないはずのクシで髪を突然とかし始めた。このまま溶けていなくなればいいと思ったのは心に留めておこう。

「実はさ、これぇ、見てみて」
「なんすか、これ」
「わかんないかなぁ。え、あ、もしかして分かっててのわざとなやつ?」
「手紙ですか?」
「うーーーーーん惜しい」
「え、手紙じゃないんですか? だったら何かの架空請求ですか?」
「なんだよ、それ。これはもう当たらないな。じゃあ、言っちゃうよ、言っちゃうよ」
「どうぞ」
「ら・ぶ・れ・た・ぁ。言っちった言っちった」

胸クソ悪い反応をするな、照れるな40代。……こんな大人に惚れるとか我が妹ながら血迷ってるなと思うほかない。…

「ラブレター? 間違って送ったんですかね」
「間違い!? そんな、だってここに大宮春樹さまって書いてあるし。これ僕の名前だし」

妹の他にもいるのか、え、つまり40代好き女子が増えているということか。なんて時代だ。

「知ってる人からなんですか?」
「名前が書いてない」
「じゃあ、男からかもしれませんね」
「このまるっこいかわいい文字を書くような男、この世にいるわけがない」
「決めつけるな」
「訳あって名前は言えませんが、いつもコンビニを利用させて頂いています」
「あの全文朗読する気ですか? やめてくださいよまじで」
「僕はこれから監視カメラの映像、全部見るから。お店の方、よろしくね」

と言われてふとよぎるものがあった。

『だめだ。そこには妹が万引きした映像が鮮明に残ってる!』

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