劇作家が考える!? 新しいコミュニケーション術! vol.1

劇作家がこっそり教える、誰のためにもならない文章の書き方。進級のお便り編。

メール、メッセンジャー、LINEと文字をやり取りすることは
多いはずの現在、手紙やハガキに実際にペンで文字を書くなんてことは
ラブレターか暑中見舞い、あるいは年賀状といった季節ごとに訪れるイベントぐらい。

そして手紙のようにいささか長めの文章を相手を想いながら
書くなんてことは難儀以外の何物でもない、かもしれない。

かくいう私も暑中見舞い、年賀状を書くこともなくなり、
来年こそはと言い続けております。

そんな私が書き方講座として第一回に選んだのが、
手紙の書き方です。

手紙もハガキも書かない私になんて教えてもらいたくはない、
とまでは言われないまでも積極的に話を聞きたいとは思われないかもしれない。
私だって嫌です。お前、書いてないじゃないか。何だこのやろう、
と思ってしまいます。でもちょっと待って下さい。やってみようじゃないですか。
大体こういうのは自分を棚に上げるところから始まるんですから。

多少真面目に、多少ブラックに、紆余曲折を経て、
ペンを紙に押し当ててみましょう。

進級のお便り

A君から故郷のおじいさまへ

おじいちゃんへ

お元気ですか。僕は元気です。
4月から僕も中学生になりました。

友達100人できるかなと思って新しい生活を始め、
中学に通いだしてから早一週間が経ちます。

ようやく気づきました。
思っているだけじゃ駄目なんだってこと。
勇気出して話しかけなくちゃ駄目なんだってこと。

結果、ひとりです。
でもそれほど孤立って不幸なことじゃないんだって思うんです。

無理してつるんで、無理して笑って、無理して登下校一緒にして
とかやらなくていいんだからね。不幸中の幸いってこのことだよね。
僕が1人が好きな人間でよかった。だから安心して下さい。

お父さんはお母さんよりも心配症なので、僕が友達出来たかを
朝食、夕食の度に聞いてきます。あれは何とかしてほしいです。
でも僕も偉いと思うんですよ。何がって?

例えばですね、
友達と放課後勉強しているという体で帰る時間を遅くしてみたり、
入ってもいない部活動の起きていない出来事をユーモア交えて話してみたり、
友達から貰ったんだって言って自分で買ったシャーペンを見せびらかしてみたり。

その成果もあってお父さんが聞いてくる回数は減ったんだよ。
その分僕の何かが削られている気もするんだけど、きっと気のせいだよね。

そうだ。今度ね皆と旅行に行くことになったんだ。鎌倉だよ、鎌倉。
おじいちゃんは行ったことあるかな。きっとないよね。
ずっと病院暮らしだもんね。

今からとっても楽しみなんだ、僕。
だから中学からせっせと貯めてきたお小遣いを今こそ使うべき時だって。
天のお告げを聞いた気がして貯金箱、この前こっそり割っちゃった。
あ、別に新しい貯金箱をねだってるんじゃないからね。本当だよ。

鎌倉、サザン、大仏、鶴岡八幡宮、銭洗弁財天。
きっといっぱい思い出できるよ。

今度はいつおじいちゃんに会いに行けるかわからないけど、
その時はもっとたくさんのことお喋りしたいな。
でもおじいちゃん、ずっとチューブに繋がれているから話せなかったね。
大丈夫だよ、僕、耳元でいっぱい話すから。

ではおじいちゃんもまだまだ元気に頑張って生きて下さい。

かわいい孫より。

コメント1

文章というのは相手を想う気持ちさえあればどんな書き方だってよいわけで、
うまく書く必要なんて全くないのです。

しかしこの文章を送られたら大丈夫かなと思わずにはいられませんね。
なのでマイナス部分をぼかすことをオススメします。

このお手紙において問題なのは、ひとりだということを心配させないように
藻掻けば藻掻くほど余計な情報が付け足されてしまったということです。

では添削してみましょう。

【添削】A君から故郷のおじいさまへ

おじいちゃんへ

お元気ですか。僕は元気です。
4月から僕も中学生になりました。

友達100人できるかなと思って新しい生活を始め、
中学に通いだしてから早一週間が経ちます。

ようやく気づきました。
思っているだけじゃ駄目なんだってこと。
勇気出して話しかけなくちゃ駄目なんだってこと。

残念ながら100人は出来なかったよ。
でも諦めてもいないんだ。きっといつかは出来るってね!

今日できなかったからと言って明日も出来ないだなんて誰が決められる?
神様? 仏様? ノンノン、それは僕だよ。僕の行動によって運命は変わるんだ。
友達を増やすのもいいけど、ひとりだってきっといいさ。

お父さんはお母さんよりも心配症なので、僕に友達出来たかを
朝食、夕食の度に聞いてくるのは愛されている証拠だね。

そうだ。今度ね皆が旅行に行く話をしてたからね、
ついていくことにしたんだ。どこにかって?
鎌倉だよ、鎌倉。

おじいちゃんは行ったことあるかな。
鎌倉、サザン、大仏、鶴岡八幡宮、銭洗弁財天。
きっといっぱいいっぱい思い出できるよ。

今度はいつおじいちゃんに会いに行けるかわからないけど、
その時はもっとたくさんのことお喋りしたいな。
おじいちゃんの耳元でいっぱい話してあげる。

ではおじいちゃんも元気に頑張って明日を迎えて下さい。

かわいい孫より。

コメント2

いかにポジティブに情報を削り、付け足すか。
もしかしたらA君は友達なんて出来ないかもしれない、
一人でもいいって思ってしまっているかもしれない。
そうなると、その想いはとても強く滲んできてしまうことでしょうから
隠すことは自身を捻じ曲げることとなり、精神衛生上よろしくないと思います。

また病室のおじいさまが必ずしも読むことは出来ないかもしれない。
でも付き添っているおばあさまが読むかもしれない。
そこを踏まえるとおじいさまのご様子については書かないほうが
よいと判断します。

あとは生きて下さいとかは受け取り方次第ですが、
多少ブラックでもあるのでお気をつけ下さい。

私はA君の今後に多少の不安を覚えつつも、
どうか健やかに中学生活を送られることをお祈りしております。

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