【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.33

「宿題なんてこりごりだ」と僕が何度言ったとしても二階堂さんも熊井さんも「OK」とは言ってはくれず、僕の二度と戻っては来ない青春の1ページはただひたすら勉強によって消費されていった。

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気づけばもう夏が終わる。宿題だけは終わっていた。これも二人が諦めずに、いや、僕がただひたすら我慢し続けて手を動かした結果であると、少しは自分を褒めてやらねばと思ったり思わなかったり。

家には1人。両親は家族旅行と言って昨日から札幌に行っている。家族旅行、僕だけがここに置いて行かれて家族旅行とは如何に。まあ夫婦水入らず、羽を伸ばせばいい。

僕はカバンに早々に終わった宿題を詰め込むと、iPodに手を伸ばした。この前、二階堂さんが図書館の帰りに口ずさんでいた曲が頭に残っていて、そのメロディをつい頭の中で再生してしまう。結局iTunesで買ってしまった。

「ねえ、タカナシくんは何故この世界に歌があるか知ってる?」
「歌いたいから」

図書館を出たところで二階堂さんは前を歩きながら言った。
熊井さんは「?」を顔に浮かべて二階堂さんを見ていた。

「そうかもしれないね。でも私の答えは違うんだ」
「へぇ。じゃあ、二階堂さんはなんで歌はこの世界にあると思うの?」

二階堂さんは笑ってこういった。

「心の傷を癒やすために人は歌うんだよ」

僕は彼女のその表情からすぐには視線を動かせなかった。なんて寂しそうな顔をして微笑むんだろうと思ったから。じっと僕が見ていると彼女の方が何かに気づいたようにその浮かんでしまった表情を打ち消すように笑みを浮かべ、顔を背けた。そしてこの歌をハミングしだしたのだ。

僕はiPodを再生する。決して寂しい曲ではない、むしろテンポのいいロック調の歌。なのに彼女の唇からこぼれていったのは……僕はまだ、彼女を知らないのかもしれない。

9月、新学期がもうすぐ始まろうとしている。

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