【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.34

夏休みが終わろうとしている。ってことに気づいた朝。それなりに楽しかった。「それなり?」って、いや、去年の数十倍も今年は楽しかった。でもこれで終わりでいいの、私。

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家族で旅行をした記憶は正直言ってないけど、そういうのが当たり前だと思っていた。私には私なりにやることもあるから。部活にも入っていない私に何があるのかと問われるならば、未確認生物を探すという使命があるのだ。でもそれも、きっと一人で家にいるのが耐えられなくなって「作り出した趣味」に過ぎない。そんな趣味に付き合わされたタカナシくんを思うと幾許かの申し訳無さが頭を過る。

夏休みの宿題が終わった日の図書館からの帰り道、私はふとある歌を口ずさんだ。宿題からの開放感からだったのかもしれない。その歌はお父さんが好きだった歌。言ってみれば懐メロ。このアーティストが歌う曲は他にもあるんだろうけど、私にとってはこれだけ。他は知らない。ねえ、お父さん。もしもまだ生きていたら、私のことを愛してくれましたか? 私に居場所を作ってくれましたか? …こういうことを思ったりすると疲れている証拠ねって思う。

「ねえ、タカナシくんは何故この世界に歌があるか知ってる?」と私が聞くと、彼は考える素振りすら見せずに「歌いたいから」と答えた。質問というのは考える時間があり、その上で回答をすべきものだと彼に教えなくてはいけない。私には一つの答えがあった。きっとその答えはすべての人にとっての答えではない。私や私のような人間にとっての答え。

「心の傷を癒やすために人は歌うんだよ」

タカナシくんはそう答えた私の目を見つめ返してきた。いけないと思った。私の心の中を彼に覗かれる、そんな気がしたのだ。だから私はすぐさま取り繕うような笑みを浮かべてみせた。ああ、その笑顔すら笑顔になっていない気がして。ねえ、私の表情から貴方は何を読み取ったか答えてくれない。きっとあなたは困った顔をして、笑っているんだろうなと想像すると少しだけ気が紛れた。

ふと視線を窓の外に向けると、隣家に咲く向日葵が見えた。
夏はまだ少し時間はある、と言っているようだった。

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