【短編オリジナル小説】猫も大概ヒマじゃない vol.10

「今度、お姉ちゃんのお墓参りに付き合ってくれませんか?」と美冬ちゃんが言うので、
「ああ、いいよ」と答えてしまったが……

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明奈のお墓参りは以前一度だけ行ったことがある。
美冬ちゃんにも内緒での墓参りだったし、私が行ったことは今も知らないだろう。

東京から外れて何のゆかりがあってこの土地の墓に埋められているのだろうと気になりはしたが、
駅前から出ているバスに乗って、閑静な住宅地を抜けたところにある霊園、そこに明奈は眠っていた。

季節は夏。蚊がぶんぶんと飛び回っていたことを思い出す。
結婚したことを謝りに行ったわけじゃない。かと言って何もせずにはいられなかった。

墓石を前にして言葉は出てこない。私は何をするために、どんな言葉をかけるために此処に来たのだろうか、と自問する時間がまるで永遠のように感じられた。じりじりと照りつけてくる太陽は刻一刻とその場所を変えていき、頭上にまでやってきた。

明奈、私が憎いか?
それは実際に言葉として発した気もするが、心の中での呟きであったかもしれない。

「お兄さん、どうかしましたか?」
という美冬ちゃんの声に我に返ると今まで夢想していた霊園の墓石たちは立ち消え、バーの十河さんと美冬ちゃんがこちらを眺めていた。いいや、なんでもない。そう答える私に対して、そうですか、と言って持っている手帳を彼女はめくっていた。

「いつ、空いていますか?」
「え?」
「お墓参り」
「ああ、そうか」
「…やっぱり嫌ですか?」
「そうじゃない」
「気が乗らない? 気が重い?」
「全然。ちょっと考え事をしていたから。土日であれば今のところいつでも暇してるよ」

そう、妻と別れて、土日は家でごろごろとしているような日々だ。

「じゃあ、今週でどうですか?」
「あれ、今週雨じゃなかった?」
と十河さんが言う。美冬ちゃんが顔をしかめて再び手帳を見つめる。どうやら私なんかより予定が入っているようだ。

「じゃ、再来週でいかがでしょう?」
「再来週の土曜日?」
「ですね。日曜日はゆっくりしたいですよね、お兄さん」
「別にいつもゆっくりしているし日曜日でも構わないよ」
「いいえ、日曜日はゆっくりするんです」
「なんで?」
「だって、」
「だって?」
「日曜日ですから」
「それ、答えになってないよ」

私は笑って彼女の言葉を反芻した。
「だって日曜日ですから」か。

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