妹からのLINEの返信は俺がバイトを終わった時間を見計らったように返ってきた。
「何の用?」大分シンプルなご返信じゃないか、妹よ。
帰宅した俺は真っ先に言った。
「俺はキューピッドになるつもりだ。わかったか」
「はぁ?」
「今はわからなくてもいい。しかしだ、妹よ、店長はやめておけ。代わりのバイト店員は紹介してやるから」
「それじゃあ意味がないんですけど」
「意味とかそんなもの考えちゃいけない。現実を見てみろ。あの店長なんだぞ。お前は店長の変態度をわかっていない」
「変態じゃないわ。面白い人よ」
「それはお前の捉え方次第じゃないか」
「お前とか呼ばないでよ」
「はぁ??」
「兄でも『お前』とか言われるのは嫌なんですけど」
妙な所で妹は潔癖というか、なんというか。俺は言葉なく、ただ椅子に座った。時間だけが虚しく経っていく。とはいえ、用件を伝えなくてはいけない。そうしなくては誤った道を妹は進むことになる。いや、兄が働くコンビニで万引きした時点でもう誤りまくっているんだが。
いや、待てよ。もう人生踏み外してしまったなら、それはそれでもう店長との恋路を兄として応援してやるのも一興か。違う。その先には絶望しかない。パンドラの箱には希望が残っていたが、この箱は初めから希望なんてものは入っていない。
「あのさ、うちで働いている佐田とかどうなわけ。年齢も近いし、そんなに悪いやつじゃない。顔だって、まあ、目を閉じて心の目で見れば、やしきたかじんぐらいには見える」
「や、しきたかじん? 何人よ」
「ふっざけんなよ。やしきたかじん知らないとかまじ考えられないんですけど」
ジェネレーションギャップは確実に店長と妹の間でこういう喧嘩の火種になる、ってことを俺は今ここに証明した。さあ、これがいい見本だ、考えなおすがいい、そして顔でも洗ってくるがいい。
「兄さんは、どうして店長はダメで、その佐田さんはいいわけ?」
「別に佐田がいいとは一言も言っていない」
「え、つまりなに。どういうこと?」
「結論、おま、……まだ恋愛は早いってことだ」
「ざけんな」
そう言って妹は持っていた雑誌を俺に向かって放り投げた。
どさっと俺に当たって落ちた雑誌が偶然開いたページにはこう書かれていた。
『年上カレシに好かれるメイク』