【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.5

二階堂さんは今日も凛としていた。
次の授業の準備もせずに。

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「ねえタカナシくん」

一瞬自分の名前を二階堂さんが呼んでいることに全く気づかなかった僕。

「無視されてるのかしら、タカナシくんに」

という声で漸く僕に語りかけてきているのだと理解し、
慌ててフォローをするのだった。

「無視だなんて人聞きの悪い。僕はまさかあの二階堂さんが
声をかけてきたという現実を受け止めるのに時間を要したんだよ」
「あの、って何? どういう私なの、あなたにとって」

例えばコンビニのビニール袋に顔を突っ込んでものを食べるような!
例えば文房具屋さんで買いもしないのに消しゴムの試し消しをしちゃうような!

まだまだある。僕は意外と二階堂さんのことを見ていた。
という事実を知って訝しく思う。違う違う。そうじゃない。
誰だって二階堂さんの一挙手一投足が気になって見てしまうんだ。
僕だけじゃない。……

「で、どんな私なの? 教えてよ」

同じ高校生かと思うほどに妖艶な笑みを浮かべる彼女。
うっかりその気があるんじゃないかと思う同級生は後を絶たない。

「凛とした二階堂さん、とか」

それは嘘じゃない。
それもまた彼女を構成する一つの側面だ。

だけどその答えに不満そうな表情を浮かべて、そしてあなたもそんなこと、
とでも言いたげに視線を俯きがちにする二階堂さん。

「ねえ、タカナシくん。私はこのクラスで浮いてるでしょ?」

そうですねとはとても言えないような質問を彼女はする。
僕は言葉に窮しながら、解釈の難しい笑みを浮かべてその場を濁した。

「そうやって笑って済まして。まるで大人みたいね、あなた」
「早く大人にはなりたいと思うよ」
「私は大人にはなりたくないわ」
「二階堂さんはとても大人びて見えるけどね」
「ありがとう。でも嬉しくはないわ」

髪を掻き上げる二階堂さんの横顔はとても寂しそうだった。
確かに彼女はこのクラスではとても浮いた存在だ。
だからと言って仲間はずれにはされていないしイジメも受けていない。

「もっと心を開けばいいのに」

うっかり僕はそんな言葉を口にし、それを聞き逃すような二階堂さんではない。
何せ、あの二階堂さんなのだから。

「じゃあ、心を開く特訓に付き合ってもらえる」

どうやら僕には拒絶することは認められないようだった。

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