【短編オリジナル小説】万引き犯を捕まえたはいいが妹だった。第9話(全12話)

監視カメラの映像を個人的欲望に従い全て見ると言い出した大宮店長の肩をがしっと掴み、俺は首を横に振った。

前回はこちら

「なに、一緒に見る?」
「違います。監視カメラの私用とかやめて下さい。本部に報告しますよ」
「脅されている…」
「脅しじゃなくてまともな話ですよこれは」

やだやだと駄々っ子のように暴れだす店長をスタッフルームから追い出すと、俺は速やかに監視カメラの映像の一部を消した。まあ一部と言って全部消してしまったのは店長の悪事を事前に防ぐためという理由でなんとか切り抜けることが出来るだろう。よし。

机の上に置かれている不幸の手紙、もといラブレター。俺は何気なくそれを取り、読み始めた。が、読み始めたことを3秒で後悔することとなった。

『前略。などと固い始め方をしてみたものの、前略とはなんでしょうか。わかりません。何が略されているのでしょうか。すみません、話が逸れてしまって。

訳あって名前は言えませんが、いつもコンビニを利用させて頂いています。品揃えという点では他のコンビニと変わることはありませんが、ここで働く人たちはみな私に親切でちょっとしたことで声をかけてくれます。フレンドリーなコンビニ、フレビニですね。

店長がこのお店を大事に思っていらっしゃるのは利用者としても分かることですし、尊敬さえ致します。どうか今後もこのお店を守っていってほしいなと思ったりします。

私、やっぱり好きです』

静かに手紙を折りたたみ、封筒に戻した。ここまで読んでおいて思ったのは、どこがラブレターだという誰にぶつけたらいいのか分からない憤りだった。

好きです、ってこれは……お店のことだろう!

店長の早とちりもいい加減にして頂きたいと思いつつ、俺は妹のことを思い出した。よかったな、ライバルが一人減ったぞ。…違う、兄としては由々しき事態で変わりはない。さてどうする。この手紙、手紙で盛り上がっている店長は放置するとして、……

俺は一つの真理を思い出した。『恋というのは新たな恋によって上書きされる』

「お疲れ様です」と言ってちょうどスタッフルームに入ってきたアルバイトの佐田を見て、俺は思わずにはいられなかった。

『鴨が葱を背負って来たな』と。

お問い合わせフォーム、Twitter、Facebookにてぜひご感想をお聞かせください。