【短編オリジナル小説】ハリガネハチマキの明日は来ないと思え vol.13

ショートコント「友永親子のなつやすみ」

夏休み。朝、宿題をやっている子供のところに父。親子の会話というのはこうも難しかっただろうか?

【キャラ】
父役:荒巻
息子役:張本

前回はこちら

息子がリビングで宿題をしているところに父入り。

父「息子よ、宿題か」
息子「父よ、話しかけるな、宿題だ」
父「息子よ、父だぞ」
息子「父よ、二度言わせるな、話しかけるな」

父、無言で息子の隣りに座る。

父「夏休みだな。(息子無言)そうやって父を無視し続けるのは構わない。だがしかし、私は退屈している。夏休みに父親は息子にもてなされたいと考えているんだが」
息子「馬鹿なことを言うのも大概にして頂きたい。私ももう11歳なので、父の面倒ばかりはみていられないことぐらいはわかるでしょう。野山を駆け回ってカブトムシだクワガタだなどと言っている時分はとうに過ぎた」
父「息子ぉ。まだそれは早くはないか。11歳。まだ鼻水たらして野原を駆け巡ってもよいではないか。お前をそんなに老成させてしまったんだ。むしろ私の言動と比較したら、私の方が息子みたいじゃないか」

息子、黙って宿題を続ける。

父「待て待て待て。その間はなんだ。無言の肯定はやめるんだ、息子よ」
息子「父と言い張るならば、父らしく黙って子供の宿題が終わるのを待つべきだ」
父「べきとか小賢しいことを言うな。べきとか」
息子「相手だったら母にしてもらってください」
父「それが出来るならそうしている」
息子「父よ、まさかとは思うが、先程から母の姿が見えないのはどういう意味か?」
父「触れてはならん、そこに触れてはならん、触れた瞬間にそれが現実となる」
息子「いや、触れるべきだ。そのかさぶたにすらなっていない傷跡をえぐるのは今この時を逃して一生訪れることはない」
父「早まるな。息子よ、宿題をするがいい、存分に宿題をするがいい」
息子「父、おお、父、現実から目を背けてはならぬ。大体のことは読めている。さぁ申してみよ」
父「母は、出て行った。書き置きを残して」

息子に手渡される書き置き。

息子「実家に帰らせて頂きます。暫くの間、息子をよろしくお願いします」
父「何故だ。理由は何だ。私か、私が元凶か。諸悪の根源だとでも言うのか」
息子「結論を早々に出そうとするのは父の悪い癖だといつも申し上げている。ここはひとまず落ち着こう。そしてゆっくりこの母特有の丸文字を眺めながら推理しようじゃないですか。宿題はひとまず傍らに置いておくとしてですね。例えばここ、『暫くの間』とはいつまでを意味するか。戻ってくるのではないでしょうか」
父「なるほど、そういう読み方もあるか。だがな息子、『暫くは預かって置いてください、後日、息子を引き取りに来ます』とも読めるではないか。ああ、私はこんなにもネガティブなものの考え方をする人間だったのだろうか。ディストピア、嗚呼、悲劇的な結末、バッドエンドだ」
息子「まあ、そういう読み方も出来るかもしれませんが、まあ、それはそれで息子としては特に」

間。

父「…ん?」
息子「ん? おっといけない、宿題の今日のノルマが終わっていない。いい加減、息子の邪魔はしないで頂きたい。そういうところじゃないか」
父「二人して父を置いて去ろうというのか。私の何がいけないのか。ただ父は父としてもっと深く付き合いをしたいと思うわけでそれ以上に関係をなじませたいわけで」
息子「それは人のことを思って進めるのであれば誰も迷惑とかには思わないでしょうね。ただ、闇雲に関係を深めたいなんぞ言うのはあなたのエゴであると息子は言いたい」
父「エゴとかよくわからぬ言葉を持ち出すな息子よ」
息子「宿題の手伝いをするならまだしも邪魔をする父親を息子は父とは認めない」
父「なら手伝う。手伝うから父を父として認めるがいい」
息子「最早遅し」
父「いやいや、まだまだ」
息子「もしあなたが今やることがあるとすれば、それは息子の邪魔をすることではなく」
父「ではなく。あ、邪魔をしている気は毛頭ないんだが」
息子「母に電話をすることだ」
父「…ああ」

静になる食卓。再び宿題に戻る息子。父、暫くしてから携帯で電話をかけ始める。
溶暗。

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