「佐田くんさ、彼女いないよね? 彼氏でもいいけど」と俺は聞いてみた。
「ちょっとちょっと、決めつけないで下さいよ。僕にだってですねぇ」
「いないだろ」
「紹介でもしてくれるんですか? だったらいないってことにしてあげないこともないですけど」
ここまでの会話で既に面倒くさくなって発狂しそうになっているわけだがあんなちんちくりんな店長を義兄と認めるわけにもいかない。ここはひたすら我慢だ。
「そそそ。紹介紹介」
「じゃあいません。で、どんな子ですか? かわいいですか? クールビューティーってのも僕の中で来てるんですけど」
自分の妹を評価するのもあれだし、かわいいよとか言っている自分とか想像すると吐きそうになるから、棒読みにならないように気をつけつつ、「ああ、可愛い系? きっと気にいると思うな」とだけ言った。
「まじっすかぁ!」と一人テンションが急上昇した佐田くんには申し訳ないが、この縁談は最終的には破断となってもらわないことにはならぬのだ。哀れな佐田くん。来世で良き出会いに恵まれてくれ。
「ででで、写真とかないんですか? 動画でもいいですよ」と「じぇじぇじぇ」と言う感じで前のめりに聞いてくる佐田くんに圧倒されつつも、妹の写真など携帯に保存しているような兄ではないのだよ。
「いやぁ、写真とかはないんだけどさ、いい子だよ。会ったら気にいるよ」
「ほっほほーい」と飛び跳ねそうなぐらいに喜びを表現している彼は哀れを通り越して神聖なものへと俺の中では格上げされていた。
「佐田くんさえよければ日程調整するけど、いつ暇?」
「何言ってるんですか。いつでもいいですよ、なんなら今からでも!」
「おいおい、店長が聞いたら嘆くぞ。じゃあ、明後日ぐらいで一度調整してみるわ」
「あざまーーーーす。このご恩、何かしらの形でお返しします!!!」
「いいっていいって」
そうだ。いいんだよ、これが出会った所で何も始まらないし、始めさせないし。恨まれることはあっても感謝などされることはない行為なのだから。
あとは妹をどう引っ張ってくるかだなぁと思いながら、ひとまず明後日暇かどうかをLINEで確認のメッセージを送った。