帰宅部というのは放課後は部活をするでもなく家に帰る学生のことを言うらしい。
となると私はそれには当たらないと思われる。
かくして私と急遽参加となったタカナシくんは放課後、
未確認生物を探しに学校を飛び出した。
「どこに向かってるの?」とタカナシくんは電車に乗った私に聞いた。
まさか電車に乗ってまで探すとは思っていなかったのかもしれない。
「3つ隣の駅にこれから行くわ」
「そこには何があるの?」
「まあ、行ってからのお楽しみ」
電車に揺られながら、私はいつものように窓の外、
流れ去る景色を眺めていた。
「二階堂さんはさ、いつも放課後は?」
私はうっかりしていた。今日は隣にタカナシくんがいるのだった。
サービスをしないとまた付き合ってくれなくなるかもしれないと思った時、
あれ?と同時に思った。
『なんで私、またタカナシくんに付き合ってもらおうと思っているのだろう』と。
「二階堂さん?」
「え? そうね。放課後は隣町にも行くし、電車に乗らずに捜索することもあるわ」
「へぇ。ひとりで?」
「ひとりで」
「そうなんだ」
「そうよ。それがどうかした?」
「ううん、別に。ちょっと気になったんだよね」
「何が?」
「いや、二階堂さんと僕って席は隣同士だけれどもあまり喋ったことなかったし」
と言って頬をぽりぽりとかいているタカナシくんの横顔を夕日が染めた。
私は暫くその顔を眺めていた。
「私の趣味ってなんだと思う?」
「ピアノと習字だね」
「断定されたわね」
「え、違う?」
「ピアノは習ったこともないわ。習字も」
「そうなんだ。当たってると思ったんだけどな」
タカナシくんが想像していた二階堂さんという存在は、きっと私なんかよりも、
なんというのだろう、ステレオタイプなおとなしい女の子に違いない。
「失望した?」
「なんで?」
「いえ、想像と違って?」
「全然。楽しいよ。イメージが上書き保存されていくのって。新鮮で」
「そう。ならよかった」
どうやら私はそのタカナシくんの言葉に『よかった』と思ったらしい。
そしてタカナシくんの想像した二階堂さんという存在に打ち勝ったと思った。
想像などに負けてなるものか。
「ねえ、二階堂さん」
「ん?」
「もっと二階堂さんの話を聞かせて」
私は戸惑った。話せるほど私は知識も経験も豊富ではない。
悶々と唸っていると、駅に着き、私を救いだすように電車の扉は開いた。