【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.35

夏休みも残り2日となった日。二階堂さんからLINEが来た。

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『暇だと思うんだけど』という書き出しで始まった二階堂さんのメッセージ。余程彼女も暇を持て余して持て余しきれなくなって連絡を送ってきた様子。僕はあくびを噛み殺しながら返信する。

『決めつけてもらっちゃ困るな。これでも僕は忙しいことには定評があるんだ』
『忙しいって何してるの?』
『忙しいというのはね、何かをしているから忙しいのではなく、何もしていないから忙しいということもあると思うんだ』

二階堂さんから「?」が頭に刺さって血を流しているクマのスタンプが送られてくる。有料スタンプであることに驚いた。ハイセンス過ぎて僕にはそのかわいらしさがわからなかった。

『ねえ、このスタンプ何?』
『流血熊五郎』
『へぇ』

僕がこの時返信できた反応は『へぇ』という二文字しかなかった。もう少し褒めてあげるべきだっただろうか。

『あ、これは第2弾で、流血熊五郎の逆襲ね』
『おう』

いらない。そんな情報いらない。いや、聞いた所で何もならない。という思いからの『おう』だった。

『ということで僕は何もしないことで忙しいんだ』

再びスタンプ。クマが頭に刺さった「?」を抜いて投げつけてくる動くスタンプだ。

『夏休みが終わるって気づいてる?』
『まあ』
『そうなると何かをやっておかないと後悔するって思わない』
『外は暑そうだよ』
『暑いわよ』
『外?』
『そう。駅前。なんか祭りみたいなちょうちんがぶら下げられてるわ』
『そうか。今日夏祭りだっけ』
『今日の予定、夏祭りってのは?』
『今日の予定って』

僕は部屋の窓を開けた。もわっとした熱気とセミの必死な鳴き声が室内に遠慮なく入ってきた。

『だいぶまだ暑いんですけど』
『そりゃそうよ。夏ですもの』

きっと彼女は冬になったら『そりゃそうよ。冬ですもの』って送ってくるタイプだと思った。

『ねえ、あのさ、僕がそれに行くとしてメリットは?』

既読がつく。暫くスタンプすら送られてこないので、移動中かなと思い、僕は携帯をベッドに放って、ゆっくりと窓を閉めた。クーラー万歳。

携帯が鳴る。LINE電話で二階堂さんから着信。

「電話って」
「いいでしょ。無料なんだからさ」
「メリット思いついた?」
「そうね。タカナシくんが夏祭りに来るメリットは、」と言って二階堂さんは暫く黙っていた。本当に思いついたのだろうか。
「メリットは?」
「私の浴衣を拝める」
「ああ」

僕は顔を赤らめてその言葉を口にしている駅前の、浴衣姿の二階堂さんを想像しつつ、財布を掴んで家を出ることとした。

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