時が経つのは早い。二階堂さんに告白してしまった僕は、その回答を待ち続けていた。もう2週間になる。
「二階堂さん、ねえ、二階堂さん」
僕は目の前をとことこと歩く彼女を追いかけつつ、話しかけた。
「タカナシくん、あなたが言いたいことはよくわかる。でもこれはささやかな私の復讐だと思って存分に楽しんでくれたらいいわ」
「待たされることを楽しむなんて出来ないよ」
「あらやだ、あなたにはわかりっこないことだと思ってたわ」
「なにが?」
「ほらまたそうやって。わかっているのにわかっていないフリをする」
別に僕だって悪気があってやっていたわけじゃない。困らせようと思ってやっていたわけじゃないんだからぷりぷりといつまでも怒らないで欲しいと思ったものの、それを言ったらまた怒られるのがオチだと僕は知っていたから黙っていた。
「ちなみに僕らはどこに向かって歩いているんだろう?」
放課後、帰る準備をしていた僕に二階堂さんは「ついてきて」とだけ言った。
どこへとも聞かずに僕は彼女を追いかけることになった。
結果、僕は未だにその答えを知らずにいる。
「いい、タカナシくん。何処へというのは重要なことではないわ」
「だとすると何が重要なんだろう」
彼女はこれが答えだとでもいいたげに微笑んだ。
僕にわかったのは、確かに何処に行くかなんて大した意味はないってこと。
その時、誰と一緒にいるかってことなんだと、そう思ったんだ。
電車に乗り、ゆらゆらと吊革を掴んで僕らを運ぶ電車。
窓に映っているのは僕と二階堂さん。
夕日がどこか懐かしさを僕の心に運んでくる。
待てよ、こういう景色をいつか僕は見た気がする。
あれはいつのことだったろう。
「ねえ、前にもこんなことなかったっけ?」
「どうかしら。あった気もするわね。でもなかったことかもしれない」
僕は夕日を眺め、窓に映る二階堂さんを眺め、一つの記憶の断片に辿り着いていた。
それはまだ僕が二階堂さんをただのクラスメイト、として認識していた時期、
帰宅中に電車で見かけた彼女の姿。あの日もこうして夕日が彼女を照らしていた。
その時の距離はもっと遠かった。今はこうして僕は彼女の隣りにいる。
人生何が起きるかなんて神様すら想像できていないんじゃないか。
僕はふと考えた。
二階堂さんがどこに僕を連れて行こうとしているのかなんてもうどうでもいい。
ただ、もしもまだ電車に乗って移動する時間があるのならば一つ話をしようじゃないか。
「ねぇ、二階堂さん、神様はどこまで予測していると思う?」