【短編オリジナル小説】万引き犯を捕まえたはいいが妹だった。第12話(最終話)

妹はまだ子供だ。ジョナサンでステーキを奢ってやると言ったら、のこのこと誘いに乗ってきた。

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「いらっしゃいませ」というジョナサンの店員に案内された俺たちを今か今かと佐田は待っていた。そして俺たちを振り返ったその表情が陰り、曇り、無理して笑おうとして、その絶望に耐えられず、俯いた。失敬な奴だ。

「お待たせ」
「お待たせって、なんで妹さんと一緒なんですか?」
「だから会わせるって言ったろう?」
「紹介してくれるってのはまさか妹さんのことだったんですか?」
「何か不満か?」
「不満。…本人目の前にして言えないでしょ」
「言っているようなものだけどな。あ、すみません。ドリンクバー一つ」
「あと、ステーキ。ここで一番高いステーキをお願いします!」
「別に妹は食事をしに来たわけじゃないんだ。あくまでついでな」

席に着いた俺たちをちらちらと交互に見つめ、ため息をつく佐田。

「佐田君、さっきからため息とか失礼極まりないじゃないか」
「だってしょうがないじゃないですか。妹さんって」
「私がなんですか?」
「高校生でしょ、まだ」
「高校生と付き合えるかもとかテンション上げてやれよ」
「年下無理なんですよ、オレ」
「逆にこっちが無理だとか考えませんか?」

両者平行線を辿っているのは想定内だ。

「オレの何が不満足か!」
「私の何が不満足よ!」

ん? 俺はその時何かを感じ取っていた。これはおかしな展開になってきてはいないか、と。このノリ、掛け合い、駆け引き、まさか恋が始まるとか言うんじゃないだろうな、神よ。

「落ち着け落ち着け」
「でもですねぇ」
「落ち着け!」と言いながら俺は身を乗り出してきた佐田の頭をどついた。
「何で今叩かれたんですか、オレ」

という佐田のもっともな疑問を華麗にスルーした俺は、グラスになみなみと注がれている水を一気に飲み干した。落ち着くべきは俺だった。

注文したステーキが出てくると俺や佐田がいることなど忘れたかのようにナイフとフォークを駆使して口に肉を放り込んでいく妹の姿は兄の目からも、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ残念感を覚えてしまった。佐田、気づかれていないと思っているようだが、目を背けるものじゃない。これは現実なのだ。これが現実なのだ。

「兄さんはどうして私と佐田さんをくっつけようとしてるの?」

ちょうど半分の肉がまだ鉄板の上に残されているところで、妹は俺に聞いた。何故か、そんなものは当たり前だ。あんな店長と結ばれようものなら、兄として止ざるを得ない。

「じゃあ逆に何で店長なんだ。店長じゃなくちゃダメなのか?」
「え、店長? なんですか、それ。え、もしかして面白い話じゃないですか、それ」
「騒ぐな部外者」
「持ち上げてから落とすとかやめてくださいよ」

わーわーと不平不満を口にしていた佐田はそれはそれとして、妹に問う。その回答に俺が納得するとは到底思えないので聞いた所でどうにかなるってわけでもない、それは分かっていた。

「妹の幸せを願っちゃだめなのか?」
「だったら好きにさせてよ」
「きっと後悔するよ」
「しない」
「いやする。絶対する」
「俺が嫌なんだよ」
「結局兄さんは自分のことじゃない」
「違う」
「そうよ」
「あのぉ」とたまらなくなってか口を挟む佐田をちらりと見る。「兄妹喧嘩は家でやられたほうが」

いつだってこうだ。妹は俺の言うことなんて聞きやしない。万引したときもそうだ。俺がどんだけ悩んだか彼女はわからないのだろう。理解できないのだろう。俺が男で彼女が女であり、俺が兄であり、彼女が妹だからか。そんな話なのか。否違う。

「俺の意見が気に入らないんだろう、全部さ」
「そうじゃないけど」と言いながら妹は髪を指先で遊び始めた。

「あのぉ」とまた佐田が口を挟む。「今言うことじゃないかもなんですが、店長なんですけど今月でお店辞めるらしいですよ」

一瞬の沈黙ののち、俺はその言葉を理解した。

「はあ、聞いてないんですけど。俺、聞いてないんですけど。お前、何で知ってんだよ」
「えーと、店長から聞かされたので」
「ふざけんなよ」
「ふざけてないですよ」
「なんで辞めるんだよ」
「結婚するんですって。この前、田舎に帰った話してたじゃないですか。その時、親からお見合いさせられて、そのまま」
「なんだよそれ」
「なんですかね。ゴールイン?」

妹の様子を伺う。意外と平然としているので、傷ついたとか驚いたとか、そういう雰囲気は見られない。

「平気なのか?」
「なにが?」
「いや、店長が結婚することを知って」
「ああ。でも幸せになるならいいかなって。幸せにしてあげるのが私じゃないってのは少し寂しいことだけれど」

そう言った妹の横顔はどことなく大人びて見えて、まるで他人がそこに座って話しているように俺には思えた。迂闊にもキレイだとすら思ってしまったのだ。無論、そこに恋愛感情はない。何故ならこれは現実。ラノベでもエロゲでもないのだ。妹攻略ルートなんてものはない。きっと俺はこれからもうるさく言って妹を怒らせたり、妹に腹を立てたりするんだろうと思う。それが俺の、兄としての人生なら受け入れようじゃないか。

~おしまい~

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