【短編オリジナル小説】スカウト待ちの少女に声をかけられて、俺の人生変わりそうです。 vol.4

ひとまずオーディションが終わり、自称原石・朱乃が「どうでしたか?」と言いたそうにそわそわしている。

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織田と薫子はひとまずそれを無視して、貰い物の紅茶を啜る。

朱乃「あの、すみません。紅茶はいいとして、どうだったんでしょうか?」
薫子「聞きたい?」
朱乃「はい!」
薫子「まあ、だめね。認識しているでしょう?」
朱乃「何がだめだったんでしょうか?」
薫子「認識していないの?」
朱乃「棒読みはいけませんか?」
薫子「棒読みもそうだけど、体は地面にピタッとくっついているみたいに動かないし」
朱乃「読むことに集中すると動けなくなって、動こうと思うと読めなくなって」
織田「だから覚えろって言われたのに」
朱乃「あんな短時間で覚えられるわけないじゃないですか、5ページもあるよくわからない台詞」
織田「よくわからないって、その台本、『ロミオとジュリエット』の1シーンじゃないか」
朱乃「あ、それは聞いたことがありますよ」

と言って胸を張る朱乃に対して、言葉も出ないと言いたげに首を横に振る薫子。

薫子「夢を追うってのはね素晴らしいことよ。若さ、情熱を傾ける姿は惚れ惚れするわ。でもね、プロになれるのは本当に険しい道のりなのよ。そこをどれだけ貴方が理解できているのか私はそこが分からない。のこのこと芸能事務所にやって来て、実技審査を経て、今の貴方のスキルはわかりました。それでは何処の事務所だって雇おうとは思わないでしょう」

薫子の言葉に頷く織田。朱乃はひたすら黙って聞いている。

薫子「いい。もし貴方が本気でこの世界に飛び込みたいと言うならば、もっと自分を磨いてきなさい。そうしたらまた改めて、審査してあげるから」

言い終えて事務所のドアを指し示す。つまりは帰りはそこからということだ。
朱乃は黙ったまま突っ立ったままだ。

薫子「まだ何か用? 私達も忙しいのよ」
朱乃「私、何でもやるので」
薫子「何でもやるとか言ってもね、逆にうちとしては困るのよ」
朱乃「別に私は困らせたいわけじゃないんです」
織田「そりゃそうだろうけど」
朱乃「どうしても私、デビューしたいんです」
織田「じゃあさ、なんでそこまでしてデビューがしたいの? お金が欲しいの? 有名になりたいの?」

朱乃は迷っているようにリノリウムの床の1点を見つめた。暫くして顔をあげると、薫子と織田を見て言った。

朱乃「生き別れたお父さんと再会出来ると思って」

織田は考えた。探偵でも雇ったほうが早いんじゃないか、と。
薫子は考えた。世間知らずもここまでくると清々しい、と。

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