【短編オリジナル小説】万引き犯を捕まえたはいいが妹だった。第4話

その日帰宅すると妹の七海は何事もなかったかのように振る舞っていた。
「お兄ちゃん、お帰り」

前回はこちら

「ただいま」

とラフな部屋着に着替えてソファに座っている彼女に言った俺だったが、
あまりにも何事もなかった感が出ていて、さっきの出来事は
もしかしたら俺の白昼夢だったのではとすら疑ったほどである。

「お前、さっき万引したよな?」

と聞いてみたくなる。しかし妹は鼻歌を歌いながらテレビを観ていた。
テレビではポケモンがやっていた。

「楽しいか?」
「え、何が?」
「テレビ。というかポケモン」
「ああ、違う違う。ただこれつけてるだけ。私観てないわよ」
「じゃあ消せばいい」
「静かすぎるでしょ」
「母さんは?」
「まだ帰ってない」

うちの両親は共働きで、帰りが21時とかになることも多々ある。

「夕飯は?」
「簡単に済ませたわ」
「そう」

妹は思いついたように脇においてあったビニール袋から
何かを取り出して目元にピタリと貼っていた。
『ホットアイマスク』だった。

「それどうしたぁ?」
「え、どれ?」
「それだよそれ。アイマスク」
「あ、これ? なんで?」
「なんでって。お前アイマスクは返しに行ったのか?」
「だから返しに行ったら家族とか呼び出しだよって私言ったよね?」

何故俺が責められてるのか、全くもって理解に苦しむ話の展開だった。

「で、アイマスクがなんでホットアイマスクに? またやったのか?」
「人聞きの悪い。これはこの前、薬局で」

間が生まれた。

「え、薬局で何? 買ったの? 盗んだの? え、いつからやってるの?」
「いつからって?」
「万引きだよ。お前、常習犯じゃないか」
「違う違う。これは買ったの。ほんとよ」
「ならいいけどさ」
「あと、なーちゃんだって」
「それ恥ずかしいから違うやつに」
「もう決めたから。私が決めましたから。言ってみ。呼んでみ」
「……なーちゃん」
「はい」
「恥ずかしくないか? 兄から『なーちゃん』って呼ばれて」

妹は考えていたが、すぐに首を横に振った。

「全然。むしろ望むところね」
「そうか」

俺は今後「なーちゃん」と呼ばないように気をつけながら過ごしていこうと
固く決意したのだった。

お問い合わせフォーム、Twitter、Facebookにてぜひご感想をお聞かせください。