【短編オリジナル小説】万引き犯を捕まえたはいいが妹だった。第7話

まず目の前で正座をして、俺の言葉を待っている妹に言わねばならないことがある。恋愛相談は友達にするものだ、と。

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「よくあるじゃない、相談した友達が抜け駆けして告ってさ、付き合っちゃったみたいな修羅場」とのたまう妹。

友人をもう少し信じて上げるべきではないか。それでなければそんな友人と付き合うのはよしなさいというアドバイスをしようと思ったが、そういう話ではないと思い、言葉を飲み込んだ。

「そういうのは修羅場って言わないんだよ」
「じゃあ、何ていうのさ」
「不運?」
「アンラッキーで片付けないでよ」

妹の恋愛なんぞまったく興味がない。それが兄である。そりゃあ、お付き合いしている男性がいるとか言い始めたらそわそわしだすのだろうが。まったくめんどくさい生き物ですみません。

「起きてもいない抜け駆けを恐れて友人に相談もしないというのはどうなんだ。兄なんかに相談している場合じゃないと思うが」
「もう相談したんだよ」
「は?」
「だから、相談して、しまくって解決していないからここなんだよ。最後の砦なんだよ」
「え、え、え。お前の友人の役立たなさってなんなの?」
「友達を悪く言わないでよ」
「抜け駆けとか妄想しているお前に言われたくねぇよ」

室内の温度が多少上がったような気がした。冬だったらさぞかし暖房のいらない生活に貢献したことだろうが今は何もしていないでも汗をかくような夏である。貢献なんぞされても困る季節である。

「妄想じゃないもの」と暫くしてぽつりと妹は言った。
「妄想じゃない?」
「昔あったんだよ。そういうこと。実体験だよ」
「あ、なるほど。でもさ、その友達とはそれで縁切ったんだろう」
「まあ、ぎくしゃくして、うん。今何してんだろう。また誰かの相談に乗って抜け駆けしてんのかな」

遠い目で天井を見上げる妹。それを見ているとなんだかとても不憫な気持ちがしてくるから不思議だ。その俺の感情を悟ったのか、妹は俺を見てこう言った。

「同情いらないから。回答をおくれよ」
「相談いらないから出ていってくれよ」
「もう万引きしないからぁ」

という言葉にほだされたわけではないが、俺はもう少しだけ真剣に相談に乗ってやることにした。

「で、同級生なのか?」
「違う」
「じゃあ、先輩?」
「違う」
「後輩ってお前、中学生じゃないだろうな」
「ショタじゃないんで」
「じゃあ、誰?」
「店長」
「バイト先の?」
「そう」
「でもお前、バイトしてないじゃん」
「だから、(ぼそぼそと何かを言っている)」
「ん? 何?」
「だから、…兄さんの」
「俺の。バイト先の。店長」

こくりと頷く妹。俺は腕組をして窓の外を眺めた。いわゆる一時的な現実逃避というやつだ。店長ねぇ。店長かぁ。もし神様というのがいらっしゃるのであれば「ドッキリ」と書かれたプラカードを持って今すぐ入ってきてほしい。間違って「突撃!隣の晩ごはん」と書かれたしゃもじを持ってヨネスケが入ってきてもいいだろう。許容範囲である。俺は妹を見遣り、そして天井を見上げた。どうしてこうなったのだろうかと考えた。

その時、どこかの家のベランダで少し早めの風鈴が鳴った、ような気がした。

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