【短編オリジナル小説】万引き犯を捕まえたはいいが妹だった。第6話

妹が俺の部屋に入ってくる。なんてテンションが上がる光景だろうか。冗談だ。これは現実。俺達は現実に生きる兄と妹である。どこぞのエロゲーの主人公たちではないのだ。

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「あのさ」
「勉強だっけ?」
「え、うん」
「と言っているのに何も持たずにやってくるというのはどういうことだ」
「あ、忘れた。チョット待って」

そう言って隣の部屋に勉強道具、辞書とノートと教科書を取りに帰り、すぐさま戻ってきた妹は、ベッドの上にどさっと座った。

「待て。ベッドは寝るところであって座る場所じゃない」
「いいじゃんさ。え、なに、床に座れっていうの?」
「それでいいだろ」
「なんだかとても兄が冷たい気がする」
「万引き犯の妹にはこのぐらいがちょうどいい」
「差別だよそれは。っていうかそれとこれは関係ないじゃない」
「関係なくはない。いいか、まともな大人になりたければ学校の勉強だけではなくだな」
「あーーーー、そういうのいらないんですけど」
「いいから聞けって」
「聞きません、聞きたくありません。勉強だけ教えてくれたらそれでいいんです」
「うまく兄を使おうとするな」
「使ってなんぼでしょ、家族なんて」

正直なところ勉強ぐらい見てやらないことはない。ただどうもすぐ口論に発展してしまう。兄妹だからだろうか。

「ねえ」

そう言って妹は開こうとしたノートを閉じる。

「なんだよ」
「お兄ちゃんって人を好きになったこと、ある?」
「はぁ?」
「まじで答えて」

俯きがちにそう言う妹はしおらしく、いつもこうであればいいのにと思うものの、何だか物足りない。

「これでも百戦錬磨のナンパ師だぜ」
「嘘はいいから。次嘘ついたら殺すよ」
「…それなりに」
「ま、そうだよね。恋愛したことがないですとか言えないよね」
「なんだよそれ」
「だって私の友達に惚れてたじゃん」
「な、な、な、いつだよ、それ。いつ俺がお前のクラスメートに惚れたってんだよ。地球が何回回った時か言ってみろよ」
「子供か。私、別にクラスメートって言ってないんだけど」
「……はめたなぁ」
「自爆じゃない」

確かに自爆だった。あれは1年前、うっかり妹が連れてきた友人とやらに心ときめかせてしまい、妹に紹介してくれと土下座寸前までいった、いわば土下座未満事件である。結果、なんてことはない。既に彼氏持ちだと告げられ、敢え無く撤退したわけだ。

「そうか、もうあれから1年も経ったのか」
「傷心からは立ち直れた?」
「馬鹿な。告白にすらたどり着けずに終わったものなど恋とは呼ばないのだよ」
「誰だお前は」
「まあ、妹に俺の恋愛遍歴なんざ披瀝するつもりはない!」
「別に私も聞きたくない!」
「じゃあ、何をしに来たんだ?」

妹はベッドの上のもちもちした感じのクッションをこれまたもじもじしながらこねくり回した。

「好きな人が出来たの」

なるほど。幻聴でなければ俺は妹が万引きした日に恋の相談を受けていることになる。これが現実か。否定できない現実というのか。わかった。全て受け入れようではないか。

俺は妹という現実に立ち向かうと片手で握り潰されている『地下室の手記』をそっと机に置いた。

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