【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.42(最終話)

偶然もいうなれば必然の一つだと誰かが言っていた。
それは逆も然り、必然もまた見ようによっては偶然。

前回はこちら

私とタカナシくんが教室で隣り合い、関係性を改める日が来るなんてことは数か月前には想像すらできていなかった。ただのクラスメートから友達。そして今は。…

電車に乗る。私はまだ何も言わない。どこへ行くのかとしきりに気にしているタカナシくんに答えを与えない。お預けをされている豆柴のような表情を私に向けてくる。ねえ、タカナシくん、私はね、イジワルなんだよ。

電車に揺られながら、夕陽の眩しさに眉間に皺を寄せる私達。

「ねえ、前にもこんなことなかったっけ?」
「どうかしら。あった気もするわね。でもなかったことかもしれない」

電車が停まる。そこはいつか彼と来たことのある街。あれはそう、未確認生物を探しに来たんだった。あの日からまだそれほど日は経っていない。きっと見つからないであろうツチノコもUFOも関係ない。私は誰かと一緒に何かをやるということがとても楽しかったのだ。一人であることは望んでいたことではないけれども、特に自主的に、能動的に誰かとつるんで、放課後の時間を潰すということはしたいと思わなかった。私はあの時、彼よりも先にもしかしたら選んでいたのかもしれない。でもこのことを言ったらきっと彼は調子に乗るから一生言わない。私だけの秘密としよう。

「ここって」
「覚えてる?」
「そりゃまあ。でもなんでここに?」
「場所に意味は」と言いかけて私は躊躇する。確かにここに来ることにはあまり意味がない。何も考えずに電車に乗ってしまって、ふと降りてしまったのがここだったから。最初から私に目的地なんてなかった。だけど、無意識がここを目指して行動させていたのだったらどうだろう。タカナシくんとここに来ることを私が密かに望んでいたのだったらどうだろう。意味はあるんじゃ。

「ツチノコでも探す?」とタカナシくんは言った。「探してでてきてくれるような相手じゃないけれど、もしかしたら今日は、今日ぐらいは出てきてくれるかもよ」そう言って彼は笑った。

「ツチノコ、どっちにいるかしら?」と私が聞くと彼は真面目な顔をして東に西に顔を向けて、本気で探そうとし始めた。私はその横顔を見て、迂闊にも泣きそうになった。手を伸ばせば届く距離にあなたがいるという事実が嬉しかったのだ。

私は躊躇いがちに空に残り続けている太陽のある方向を見つめているタカナシくんの右手を、そっと掴んだ。

~おしまい~

【あとがき】
この作品をお読み頂きありがとうございます。
作者の吉岡克眞です。

「猫も大概ヒマじゃない」通称ネコヒマが終わり、
そしてこの作品も終わってしまいました。

週2の投稿作品なので40回を超えるシリーズとなりました。
試みとしては火曜日にタカナシくんパート、水曜日に二階堂さんパートと
物語の視点を変えた作りとなっております。

同じものを見て同じ時間を共有している二人がいても、
同じ感情を抱いているとは限らないですし、
同じものを、同じものが見えているとも限らないなという。

きっと誰かが過ごしたことのある青春時代をひたすら
想像しながら書ききったお話。

もしかしたらタカナシくんのような子が、
二階堂さんのような子がこの世の何処かに今まさに
出会い、縁を育んでいるかもしれない。
果に何があるかはわかりませんけれど。

一度きりの青春、謳歌してもらいたいものです。
それではまた、新たな物語でお会いしましょう。

吉岡克眞

お問い合わせフォーム、Twitter、Facebookにてぜひご感想をお聞かせください。