【短編オリジナル小説】万引き犯を捕まえたはいいが妹だった。第5話

万引きをしても反省しない、リビングのソファに寝そべってホットアイマスクを使用中の女子が一人。
それが自分の妹であるという点で俺は溜息しか出てこなかった。

前回はこちら

「宿題やったのか」

俺は冷凍ピラフをレンジでチンしながら聞いた。

「これ終わったらやるわ」
「これってポケモン?」

俺はテレビでピカチュウがピカピカ光って電撃を発しているのを見ながら言った。

「だからアイマスクだって。しつこいな」
「そっちか」

冷凍もののピラフというのはうまいと思ったことがない。
べちょべちょしている気がするのは作り方を間違えているからなのだろうか。

「お兄ちゃんさ」
「うん」
「あとで勉強を教えてほしいんだけど」
「なんで?」
「なんでってなんで?」
「いや、なんでってなんでってなんで?」
「…いじわるか。これはいじわるなのか? 可愛い妹に対するやつか」
「愛だろ」
「吐くわよ」
「すまん。吐くならトイレに行ってくれ」
「吐かないわよ」
「どっちだよ。つーか、俺食事中なんだけど」
「ゲロゲロゲロゲロゲロ」

妙な曲調で歌うようにゲロっている妹を無視して、おいしいともまずいとも言い切れないピラフを腹におさめた俺は、食器を洗って自分の部屋にこもった。ようやく落ち着ける時間がやってきた。しかし考えねばなるまい。妹の万引き。兄としては看過できない問題だ。

今回で終わるならまだとか甘いことを考えるような俺に、妹を正しい道に戻してやることができるだろうか。ああ、目を閉じれば可愛かった純粋無垢な妹が「お兄ちゃんお兄ちゃん」と言って後ろからついてくる光景が今でも浮かぶ。

言っておくが俺はシスコンではない。むしろあいつがブラコンなのだ。いや、ブラコンだったのだ。何があって俺から遠ざかっていったのか。父の洗濯物と一緒にしないでと言われるのは父でなくてはいけない。その役割を兄である俺に言ってくるあたりがもう反抗期と言っても過言ではない。

隠すことはもうやめだ。俺はそう、シスコンではないと思っているが、寂しい兄であると。

本棚からドストエフスキーの『地下室の手記』を取って読む。だめだ、活字が頭に入ってこない。代わりに妹の「ゲロゲロ」という声が脳内をリピート再生された。

俺が人知れず悶々としていると、ドアがノックされた。

「入っていい」

ゲロゲロの妹の声だ。俺は体勢を整え、椅子に深く腰掛け、『地下室の手記』を今まさに読み耽っていたインテリ大学生に見えるように装い、「いいよ」と応えた。

お問い合わせフォーム、Twitter、Facebookにてぜひご感想をお聞かせください。