【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.38(全42回)

9月。つまりは8月の長い夏休みも終わったことを意味する。

前回はこちら

席替えがあろうがなかろうがそんなことは大したことではなかったのに、いざ席が代わって得体の知れない交流もない女子男子たちに囲まれ、タカナシくんが遠くに、とは言っても4席先程度になっただけだけれども、その程度は人それぞれ感じ方は違う。私にとっては…いやいい。そんな話をし始めた所で距離が変わるものでも、席が近づくわけでもないのだから。

彼に気づかれないように私はタカナシくんを見る。すると忌々しいことに、などと思ってはいけないと頭ではわかってる。そうわかってるのになんでこんなにモヤモヤとするのだろう。熊井さんが今は彼の隣りに座ってにこやかに喋っている。嫉妬。そう、これは紛れもなく嫉妬なんだと私はもう認めることにした。でも何故。彼が私のことをどう思っているかなんて、私たちの関係がどうであるかなんて何も決まっていないのに。夏祭りを一緒に楽しんだとしてもそれはそれ。友達同士だってそのぐらいはする。

タカナシくんの優しさに私はことごとく自分勝手な怒りを抱いていた。
『ねえ、知ってる、タカナシくん。優しいってことは決して正しいことじゃないんだよ』

熊井さんとタカナシくんが何を話しているのかが気になって私は耳を澄ます。しかし教室全体の騒音が私の耳にその会話を届けまいとしている。なんという不幸だろう。たかが数メートル先の会話すら遠くなってしまったなんて。

私は諦めて窓の外に目をやった。9月だと言うのに暑い日が続き、未だにセミがちらほらともしかして夏じゃないかと勘違いしてか鳴き始める時がある。そんな日の1時間目に体育をしている生徒が校庭に見え、バレーボールのネットをたらたらと張り始めた。その姿には青春という言葉も、若さ漲るという言葉も相応しくなかった。ふてぶてしくもあり、怠慢でもあり、退屈という言葉が似合いそうだ。

そんな生徒の姿を見ていることにも飽き始めた時、教室に熊井さんの声が響き渡った。

「あなたが眼鏡とか似合うって言ったんじゃない!」

タカナシくんはオロオロとして、熊井さんは机に顔を埋めた。泣いているわけではないだろう。多分、とても恥ずかしいのだ。発言と、突然大きな声を出してしまったことに。

暫くしてゆっくりとタカナシくんは私の方を見た。私はどういう顔をすべきか少し迷ったものの、笑みを返した。『タカナシくん、君は相変わらずだねぇ』という思いを乗せてみた。そんな君の優しさは罪深い。

お問い合わせフォーム、Twitter、Facebookにてぜひご感想をお聞かせください。