【短編オリジナル小説】ハリガネハチマキの明日は来ないと思え vol.5

ショートコント「自販機」

自販機前で飲み物を買おうとしている男が一人。

【キャラ】
男:荒巻
おまわりさん:張本

前回はこちら

男、お金を投入する。

男「どれにするかなぁ。あ、今日はイチゴオーレの気分だからって女子かよ、俺」

と誰に見せるでもなくツッコミを入れてみせる男。

男「いや、待てよ、最近肥えてきたからなぁ。やっぱ考えないといけないよなぁ、言ってももう40近いし。アラフォーだよアラフォー。ってことでお茶をご所望だぁ」

と言いつつボタンを押す。商品は出てこない。

男「時差か。時間差か。ちょいちょいちょい。…え、まじか。嘘でしょ。嘘だろう。うわぁ、お金取られた系? ないわぁ。え、どこにクレーム。え、マジで出てこない。え、お金は?」

釣り銭に指を突っ込むがお金は落ちてきていない。

男「ちょいちょいちょい。卑怯じゃね。金取って商品出さないって、詐欺だぞお前」

と自販機に向かって言っている。男、やみくものボタンを押したり、叩いたりしている。

男「こら、自販機。金か商品か、どっちをよこしなさい!」

継続して自販機を叩いたり、商品取り出し口に手を突っ込んだししているところに、おまわりさんが入ってくる。そして少しの間様子を見ている。
※入ってくるタイミングは稽古などでベストタイミングを算出。

男「俺がバイトだからか。きっとそうなんだろう。俺がバイトだからってこんな仕打ちあんまりじゃないか。さぁ吐き出せ。早々に吐き出せよぉ」

おまわりさん「あ、ちょっと君」

男、聞いていない。「うわぁ」とか「まじかぁ」とか「負けねぇ」とか言っている。

おまわりさん「そこの君、何してるんだ?」
男「え? あ、ちょうどいいところに」
おまわりさん「ん?」
男「詐欺です。詐欺の被害に遭いました。いや、今継続的に遭わされているところです」
おまわりさん「詐欺?」
男「この自販機が俺の金を取りやがったんですよ。この野郎、返しやがれ」
おまわりさん「まあまあ。事情はわかりましたので、ひとまず叩いたりとかはやめましょうか」
男「え、叩いてませんよ」
おまわりさん「私がここに来た時叩いてましたよ」
男「あー」
おまわりさん「あーじゃなくて、通報されちゃいますからね」
男「通報したいのは俺の方ですよ。全く」

と言って自販機を小突く。

おまわりさん「だからね。叩くのはやめましょうか」
男「叩いてませんよ、小突いたんですよ、今のは。叩くと小突くは違いますから」
おまわりさん「ん?」
男「とりあえずこの会社、自販機の会社を訴えたいんですけど、どこに電話すればいいんですか?」
おまわりさん「飲み物が出てこなかっただけで訴えられたんじゃ、ねぇ」
男「ねぇ、ってなんですか。え、バイト君は泣き寝入りでもしていろってことですか。警察はなんのためにあるんですか?」
おまわりさん「えーとちょっと落ち着こうか。この流れだと私、君を逮捕するかもしれない」
男「権力の乱用じゃないっすか。こんな正義に反する行動を俺は許しません」
おまわりさん「よし、交番行こう。交番で話そう。そこからだ」
男「断固としてここを動きません」
おまわりさん「動こうか。動きましょうよ。動くぐらいいいじゃないですか。嫌だと言うなら逮捕本当にしますけど、よろしいですか? よろしいですね」
男「逮捕は嫌です。とにかく正義は俺にあるんですから」
おまわりさん「わかりました。私も貴方と同じ目に遭いますから。そしたら交番行きましょう」
男「なんでそんなに交番に行きたがるんですか。そういうことじゃないし」

おまわりさん、ポケットからお金を取り出して投入。適当にボタンを押す。ペットボトルが落ちてくる音が響き渡る。暫くそれを見ている二人。静かに自販機の商品取り出し口に手を突っ込むおまわりさん。手にはイチゴオーレ。

おまわりさん「飲みます、これ?」

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