【短編オリジナル小説】ハリガネハチマキの明日は来ないと思え vol.6

ショートコント「司会者」

映画の舞台挨拶。司会者が横に立ち、話を進めようとするが。

【キャラ】
司会者:荒巻
俳優:張本

前回はこちら

司会者「これから本編を観て頂くのですが一言頂けますでしょうか?」
俳優「えーと、本当は今日ここには主演の山本さんが立つ予定でしたが、私なんかでつまらなかったかなって思うんですよ。でも本編は本当に素敵な作品として仕上がっておりますので」
司会者「(ぼそっと)一言って言ったのに」
俳優「え?」
司会者「え? だから一言くださいがなんでそんなに長々と喋るかな」
俳優「え? だってそれは、一言って言っても一言で終わるわけがない」
司会者「それは貴方のモノサシでしょ。まったくこれだからド素人は困る」
俳優「ちょ、君ねぇ」
司会者「まあまあまあ、つまらなかったことを長引かせるとは罪なことをします」
俳優「ちょっとしたジョークじゃないか。本当はそんなこと思っていない」
司会者「でも多くの観客はがっかりしていると思うんですよ。私も山本さんとお話できると思って今日来たわけですよ。で、気張って赤いネクタイまでしちゃってね」
俳優「知らないよ。君の気張りなんて」
司会者「いえ、知っておいてもらわないと困るんですよ。私も司会のプロですからどんなにつまらないトークでも盛り上げないとと思って頑張りましたよ。で、なんですか。映画の話ばかり。そんなのね、観ればいいんです。これから観るんですから。山本さんがどういうことをしてとか、どういうNGを出したとか、そういうのを知りたいんですよ。あなたが移動でバスに酔ったとかいらないんですよ」
俳優「だったら山本を呼べ!」
司会者「出来たら呼んでる! ですよねみなさん?」

観客から拍手。

俳優「はぁ? ちょっと待て」
司会者「ちょっと待てってお客様に言う言葉じゃない!」

観客から「そうだそうだ」のようなヤジ。

俳優「今、そうだそうだって言ったやつ、壇上に上がれやこら」
司会者「おおっと、観客と決闘ですか? 決闘罪にあたりますよ。だめですよ、お客様、挑発に乗ったりしたら」
俳優「ほれほれどうした。びびってんのか?」
司会者「煽るのをやめなさい!」
俳優「わかったわかった。お前でいい。お前、俺と勝負しろ」
司会者「暴力反対」
俳優「この映画はじゃんけんに弱い少女がじゃんけん仙人と出会って誰にも負けないジャンケンマスターになるんだ。暴力じゃない。じゃんけんで勝負しろ」
司会者「強引に映画の話に持っていきましたね。いいでしょう。小学校時代には負け無しの私がお相手しましょう」
俳優「負けたら謝れ!」
司会者「へぇへぇ」
俳優「この野郎」

客席から暴力反対の声。
俳優、舌打ち。司会者、肩を回すなどして準備に余念がない。

司会者「準備はできてますか?」
俳優「とっくにな」

睨み合う両者。

司会者、俳優「じゃんけんぽん! あいこでしょ、あいこでしょ、あいこでしょ」

両者、離れて。睨み合う。

司会者「やりますねぇ」
俳優「そっちもな」

緊迫する空気。

司会者、俳優「じゃんけんぽん、あいこでしょ、あいこでしょ、あいこでしょ!」

掛け声の中、溶暗(ゆっくりと照明が暗くなっていき完全な暗闇[暗転]が訪れる)。
※「あいこでしょ!」は完全暗転の中でも構わない。

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