【短編オリジナル小説】ハリガネハチマキの明日は来ないと思え vol.14

ショートコント「友永親子の自由工作」

夏休みも終わりに近づきつつある中で、自由工作に着手しようとしている息子。父は手伝ってすごい作品を作ることを夢見ているがこの二人の温度差はまさに悲劇を通り越して喜劇となる。

【キャラ】
父役:荒巻
息子役:張本

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父「さて、何を作ろうか」
息子「待て。父よ。まさか手伝う気ではあるまい」
父「自由工作なんてものは父が手伝ってむしろ父が作って提出する父の宿題と言っても過言ではないだろう?」
息子「過言だ過言だ。確かに恐らくこれは父親が作ったのだろうなみたいなレベルの工作物が展示されるのは見かけるが、それは異例中の異例ではないか」
父「わかった。レベルを落とそうではないか。ならいいだろう」
息子「そうではない。そうではないのだよ、父。まずもって父親の参加を認めていないんだ」
父「待て待て待て。じゃあ父は何をすればいいのだ。息子から教えてとも言われず、手伝ってとも言われずに夏が終わろうとしているではないか。私の存在意義は何だ。言ってみるがいい、息子よ」
息子「父。父の存在意義はひとまず会社に行って仕事をして、家庭を守るのが意義ではないのか」
父「つまらんじゃないか。それだけでは。家庭を守る。そんなことはやっている。そうではなく、父にもプライスレスな家族との思い出を作らせてほしいのだ。息子よ。息子の11歳という時期はすぐ終わってしまう。中学にもなればもう父とも会話などしたがらない時期がやってくるではないか。いわゆる反抗期じゃないか。家庭内暴力が蔓延し、母は見知らぬ傷を作り、父は酒に溺れ、息子は外出ばかり。家庭崩壊だ」
息子「父。そのディストピアが望みなら致し方ないが、僕はそんな未来を望まない」
父「ではこれからも父と会話をして、仲良くしてくれるというのか?」
息子「めんどくさくない程度には」
父「であれば、メモとして残しておかねばなるまい。この手帳に書いてくれ。それを誓うと。そういう未来を作っていくと」
息子「めんどくさい。とてもめんどくさい。そういうのが嫌なのだとなぜわからないのか。早く起きて今日は工作をささっと片付けてと計画していたのに、この父との会話によって僕の時間は削られ、消費されていく。僕の人生を消耗させるのはやめてほしいのだよ、父」
父「父の愛のレベルを工作ともども落とせばいいのだな。そうすればちょうどいい温度感で付き合える、そういうことだな」
息子「善処しよう」
父「息子ぉ。父は此処に誓うぞ。メモもするぞ。これで家族の未来は安泰だ」
息子「それは何よりだ。しかるに父よ、瞬間接着剤はどこにしまったかな」
父「それなら蓋が開かなくなっていたから捨てたじゃないか」
息子「じゃないかと言われても知らないことだそれは。困った、あれがないと工作が進まない」
父「買ってきてほしいか?」
息子「暇なら行ってきて欲しい」
父「なるほど」
息子「行ってくれるのかくれないのか?」
父「お願いしてみ」
息子「…買ってきて下さい。お願いします」
父「いやだ」
息子「父。減点」
父「あーー、言った側から誓いを破りかけていた」
息子「いや、かけていたじゃなくて破っているだろう。父よ、二度は言わぬ。行け」

父、黙って出て行こうとするが、振り返る。

父「一緒に行かないか。そうだ。クリームソーダを奢ってやってもいいぞ」

息子、暫く考えている。

息子「致し方ない。付き合ってやろう」

父、にやにやしている。二人はけていき暗転。
※はける際に一言二言賑やかさを醸し出してもいいが音楽でサイレント芝居という形にしてもいい。

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