【短編オリジナル小説】ハリガネハチマキの明日は来ないと思え vol.3

ショートコント「優先順位」

【設定】
居酒屋の個室に先輩に呼び出されたという設定。
一人はトイレに行っている、もう一人はまだ来ていない。
若干イライラしている先輩が座っている。

【キャラ】
後輩:荒巻
先輩:張本

前回はこちら

先輩がすでにいるところへ後輩入り。

後輩「お疲れ様です。西大路先輩」
先輩「おせぇよ。え、今何時だよ?」
後輩「20時5分です」
先輩「俺が電話したのは?」
後輩「19時20分です」
先輩「だろう。45分って。え、45分って」
後輩「すみません。ちょっと仕事があれしたもので」
先輩「あれじゃわからねぇな。つーか、仕事と俺とどっちが優先事項よ」
後輩「そりゃ、先輩の呼び出し優先です」
先輩「わかってればいい。そうだよ、仕事より俺だよ」
後輩「そりゃもう西大路先輩ですから。でも他の連中はまだですか?」
先輩「今トイレ。あとはまだ出られないとかさっきぬかしやがった。縁切りだな。
お前、俺の代わりに縁切り神社行っておいてくれや」
後輩「すみません、ビール。あ、アサヒでもキリンでもいいんで」
先輩「ちょいちょいちょい」
後輩「え?」
先輩「注文と俺の話とどっちが優先事項よ」
後輩「そりゃ状況によります」
先輩「はぁ?」
後輩「混んでくる前に注文したほうがいいでしょうし、
それにのどが渇いていれば注文した方がいいでしょうし、
話が長くなる予想がついたなら話の腰なんてものは折り畳んでしまいましょうし」
先輩「で、今は注文が優先されたと」
後輩「はい。あ、優先先輩は何か飲まれます?」
先輩「じゃ、ビール」
後輩「すみませんビールおかわりで。…だからアサヒでもキリンでもいいって。早く」

間。先輩はビールを飲む。飲み干す。空のジョッキを後輩に渡す。
後輩ジョッキをテーブルの端っこに置く。

先輩「優先先輩ってなんだ?」
後輩「はい?」
先輩「いや、今優先先輩って言っただろ」
後輩「言ってません」
先輩「そ。聞き間違いか」
後輩「先輩、この有線、センスありますよね」
先輩「それは、そっちか」
後輩「はい?」
先輩「さっきからU2ばかりかかってる」
後輩「で、今日、なんで呼び出されたんですか?」
先輩「今度引っ越すんだよ。それでちょっと手伝いをな」
後輩「先輩って彼女さんと暮らしてましたよね。二人でもう少し広めなところに
引っ越しちゃおうとかそういう? 羨ましいな」
先輩「ビールおせえなぁ。あいつも戻ってこねぇし」
後輩「で、どこの2LDK借りるんですか?」
先輩「…1Kでいいわ。とりあえず」
後輩「え、俺が探すんですか? ……え、1K?」
先輩「だめになってさ、俺たち。だから出ていくんだよ、俺が」
後輩「えー、まじっすか。悲しいっすね。悲しい先輩ですね」
先輩「ちょっとふざけてるのか?」
後輩「真剣ですよ、俺はいつだって。で、いつですか、引っ越すの?」
先輩「恐らく来月の、3日とか」
後輩「まだ家とか決まってないんですよね? 2週間ぐらいしかないじゃないですか?」

後輩、言いながら手帳を見る。

後輩「あ、すみません。予定が」
先輩「その予定と俺とどっちが大事なんだよ」
後輩「これ外せないんですよ、こっち優先で」
先輩「俺より優先される予定ってなんだよ。お前俺より偉いのかよ」
後輩「墓参りなんすよ、親父の」
先輩「そりゃ、あれだな。……行って来い」
後輩「あざます」
先輩「つーか、ビールどこまで注ぎに行ってんだって話だよ。
店員さん、ビールビールビール。最優先テーブルですよ、ここ!」

店内のU2の曲が大きくなり声がかき消される。

お問い合わせフォーム、Twitter、Facebookにてぜひご感想をお聞かせください。