【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.20

日曜日。私はタカナシくんへの講義内容を考えつつ、担任の境先生の言葉を思い出す。
「二階堂、最近なんだか楽しそうだな」

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職員室に日誌を渡しに行くと、それを受け取った境先生は何気なく言った一言だったが私はそんなに楽しそうにしていただろうかと、はしゃいでいただろうかと考えたが、特段思いつかなかった。

「私、楽しそうですか?」
「そうだね。すっごい楽しそう。学生生活満喫してますっていうオーラが出てる」
「気づきませんでした。気をつけます」
「いいんだよ。そのぐらい垂れ流していたほうが。その方が担任としては安心する。何だか日々を浪費するために学校に通っていますみたいなのよりは」

確かにそんな浪費オーラは出ていたかもしれない。不平不満があるわけじゃない。行かないといけないから学校に通っているだけの日々。飽き飽きしていたとも違うけれど。

「何が原因?」
「別に」
「なんだよそれ。え、エリカ様? エリカ様降臨なわけ?」
「はしゃがないでください、先生」
「だっていいじゃん。そんなに年齢違わないしさ」
「先生は大人なんですから」
「大人だってはしゃぎたい時がある!」
「人のことではしゃぐのはマナー違反です」
「そうかぁ。でもまあ、部活も入っていない二階堂が、何かしら楽しむことが見つかってよかったよ」
「ありがとうございます」

この先生は感情表現が豊かではあるけれど、豊かすぎて暑苦しい。でも生徒からの人気、特に女生徒からの人気はすこぶる高いと聞く。

「あ、でも噂聞いたよ」
「噂ですか?」
「うちのクラスのタカナシと、付き合ってるんだって?」

一瞬職員室がシーンとした気がした。教頭先生が小さな咳払いをした。

「先生、ここ職員室ですよ」
「え、ああ、別にいいじゃん。不純異性交遊がどうとかさ言ってるけど、恋愛するなとか言ったところでするでしょ? 違う?」
「わかりませんけど、それ先生が言ったらおしまいな気がするんですが」
「だろうね。だから浮いてるんだよ」
「わかります」
「おお、俺の大変さ、わかってくれるか」
「いいえ、分かるのは浮いているんだろうな、っていう事実」
「お前、なかなかいい性格してるな」
「ありがとうございます」
「褒めてない。でさ、タカナシくんと付き合ってる付き合ってないのはいいとして、クラスメートの彼の成績をさ、お前のマジックで上げられないものか?」
「マジックって。私手品師じゃないんですけど」
「そこをなんとか。俺が何言っても耳貸さないからな、あいつ。数学と英語はとうに捨てましたって言ってくるし。二階堂は理数系も得意だろ?」

得意だろという理由だけで教師の仕事を押し付けてくるこの先生は一体なんだろうかと考えつつ、タカナシくんの成績が悪いのは、友達としてなんとかしてあげたい気持ちもなくはなかった。

「私から言えばいいんですね」
「お、やる気になった。頼むね」
「大前提として、彼がやる気になるかどうかですからね」
「いいよいいよそれで。じゃ、彼氏によろしく」
「だから違う!」

昨日のタカナシくんの様子を考えれば戸惑っていたようには見えたけれど、まだやる気までは出してくれていないとは思うけれど、少しずつでも前向きになっていってくれたらなと思いつつ、タカナシくんへ渡すノートのコピーをクリアファイルに挟んだ。

雨が降りそうな、そんな日曜日のお昼過ぎ。

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