【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.16

私が登校すると、代わりに教室を出ていくタカナシくんの姿が見えた。

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昨日は彼に悪いことをした。3つも隣の駅にクレープを食べに付き合わせた上、帰り道は一言も会話をすることなく帰ってきたわけだから。

「じゃあ、また明日」というタカナシくんの笑顔を見つつ、私は頷くだけ。なんて嫌な女だ、私は。

「二階堂さん」とニヤニヤした女生徒3人かたまるようにして「おはよう」すらなく私に声をかけてきた。なんだこの女たちはと思ったがクラスメートの某(なにがし)と某(なにがし)であった。私は私の人生に関わらないであろう人間の名前は顔とともに覚えられないのだ。

「何?」
「ねぇねぇ、どうする。聞いちゃう?」とか何とか某同士がちちくりあっている。質問するかどうかは話しかける前に決めておくべきだ。
「何の用?」
「ほらほら、二階堂さんも聞いてきてるし」
「でも熊井ちゃんに待ってって言われてるよ」
「熊井ちゃん戻ってこないじゃん」
「だって今出て行ったばかりだもの」

3人の意見がまとまらないのを眺めながら、私は何に巻き込まれようとしているのだろうかと考えた。UMAを越えて楽しいものであればよし。そうでなければ私の朝の貴重な時間を返してほしいものだ。

「あのねあのねあのね」とテンションがすこぶる高い某かが言う。どうして3回も言わないといけなかったのだろう。3回言うぐらいであれば質問はもうできたのではないかと思う私はやはり他の人とズレているのだろうか。

「実は昨日、3つ隣の駅でね見かけたんだ、二階堂さんを」

こめかみがぴくっとなる。そうか、見られていたのか。いや、見られる可能性はあるわけで、見られて困るようなことはしていないわけだからどうとでも回答は出来る。

「二階堂さん、タカナシくんと一緒にいたでしょ?」
「いたわ」
「おお、認めた認めた」

なぜ2回言う必要があるのか。その時間が無駄だとは思わないのか、この人種は。

「でねでね、一緒にクレープ食べてたでしょ?」
「食べたわね」
「ほらほら。私の言ったとおりじゃない」
「まだよ。まだわからないじゃない」
「なにがよ」
「喧嘩やめなよ」

という3人の寸劇を見せられている私の方こそやめてもらいたい。ただちに私の前から去ってはくれないだろうか。こめかみのぴくつきが限界である。

「もしかして二人ってさ」と私のこめかみに配慮すらしてくれないクラスメートの某かは恐る恐る聞いてきた。その続きは聞かずもがな。想像するに難くない。

「二人は……」

その時、私は3人の向こう、教室の扉が開き、走ってきたのか少しだけ肩で息をしているタカナシくんを見た。

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