反省の色を見せない万引き犯の妹を前にして、兄である俺は、言葉を探していた。
「お前さ、今いくらあるの?」
「かつあげですか?」
「なんでそうなる。所持金でここにある紅茶、買って帰れない?」
俺達の目の前には妹が万引きした紅茶が3つあった。
「なんで私が」
ん? 俺は聞き間違えしたのだろうか。
今、妹は万引き犯であるにもかかわらず、「なんで私が」というような
言葉をのたまわれたような。
「今、なんで私がみたいなこと言った?」
「うん」
「穏便に済ませてやろうっていう兄の情けがわからないのか」
かと言って警察を呼ぶってのもあれだし、店長はあと1時間は来ないし。
「じゃ、帰ってもいいかな? 赤い霊柩車の再放送があるからさ」
「なんだ? 片平なぎさが好きなのか? 大村崑のファンなのか?」
「山村紅葉も出てるわ」
「知ってるよ!」
実の妹ながら腹が立つ。カルシウム不足だろうか。
「そんなに眉間にシワ寄せちゃってさ。老けるよ」
「誰が原因だ、誰が」
俺は喉の渇きに負けて、ストレートティーの封を切り、ごくごくっと飲んだ。
「それ私のなんだけど」
「違うだろう。…ひとまずこれは俺が払っておくから。お前、もう帰れよ。そしてアイマスクもちゃんと返せよ」
「いやよ、アイマスク返しに行ったら捕まっちゃうじゃない。そしたら家族呼び出しだよ」
「もう父さんでも母さんでも呼んでもらえばいい」
「あ、なんだか見放された感」
俺はズボンのポケットから財布を取り出し、中から1,000円札を抜き取った。
「なに、くれるの?」
「なんでだ! レジに入れてくんだよ」
俺達がバカバカしい兄妹喧嘩をしていると、スタッフルームにバイトの佐田が入ってきて言った。
「おつです。なんすか? 事件すか? 君、中学生? 小学生かな?」
「なに、この失礼で頭の悪そうな男は」
「バイトの佐田ですけど。あ、迷子ですか? お母さんとはぐれちゃったかな?」
「佐田くん、黙って」
言わずもがな、俺はこの男が嫌いだ。
とても人をバカにする喋り方をするのも嫌いだ。
「スネ蹴るぞ」
「こわっ」
「いいから、さっさとお店出てよ。レジ混みだすころでしょ」
「はいはーい」
佐田が部屋から出るまで俺も妹も一言も喋らなかった。
とりあえず店長が来るまでにこいつを店から追い出す、そう俺は心に決めた。