【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.11

前を歩く二階堂さんはとても速かった。
追いつくのがやっとの僕だった。

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「二階堂さん、速いよ。運動部じゃないんだから」
「何を悠長なことを言っているの。夕方はすぐに夜になってしまうわ」

二階堂さんは明らかにテンションが上っていた。
それはそうか。僕たちは今UMA(未確認生物)を探すために放課後まっすぐ家に帰ることもなく街をぶらぶらしているのだ。決してこれはデートではないのだ。

「二階堂さん、二階堂さん」
「何? たらたら歩いているなら置いていくわよ」
「ちょ、ちょ」
「蝶々なんて飛んでないわ。頑張って」
「どこに僕たちは向かっているの?」
「どこに? それは私にもわからない」

僕は立ち止まった。そして今言われた言葉を反芻する。
『わからない』というのはつまりわからないってことか。
という訳のわからない言葉を頭に思い描きながら先を
歩き続ける二階堂さんを見送った。

しばらくして僕の足音が聞こえなかったからか、
話しかけても返事をしなかったからか、
二階堂さんは慌てて僕が立ち止まっている地点まで戻ってきた。

「え、なに、どうしたの? 何か見つけた?」
「いや、だってさ、電車の中で言ってたよね。『行ってからのお楽しみ』って」
「うん。言った、かな」
「言ったんだよ、二階堂さんは。え、目的地ってないの?」

二階堂さんは少し考えていた。首をポキポキと鳴らして、
空を見上げて、彼女は言った。

「目的地はあるわ」

絶対ウソだと思った。
そんなあからさまな誤魔化しが通じてなるものか。

「いやいや、目的地ないならないでいいんだ。ただないにも関わらず
そんなに急いで歩かなくてもいいじゃないって、ただそう思ったからね」
「寄りたいお店でもあるの?」
「そういうわけじゃなくてね。時間は限られているかもしれない。
でも、もう少し楽しめる余裕があってもいいじゃない」
「なるほど。初級者向けにコース設定を考えて欲しいってことね」
「あーー、えーと、まあ、そうかなぁ」

初級者。確かに僕は二階堂さんという人物をまだよく知らない。
そしてUMA探索なんて初めてなのだ。

「じゃあ、ちょっと休憩」
「だめよ。給水ポイントはもう少し先にあるから」

僕らは再び歩き出す。その給水ポイントとやらが
ひとまずの目的地になった。

二階堂さんは初級コースのプランニングで忙しく、
歩くスピードは僕に合わせてくれるようになったけれど、
声をかけられるような雰囲気ではなかった。

「あったよ、給水ポイント」

と言って二階堂さんは一軒のクレープ屋の前に立ち止まった。
ショーケースに並ぶクレープのサンプルを眺めている二階堂さんを僕は見る。

改めて言おう。
これは決してデートではない。

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