【短編オリジナル小説】きょうの二階堂さん、きのうのタカナシくん vol.7

僕は勉強ができない。中でも数学というのは苦手すぎて笑えるほどだ。
なので僕は二階堂さんにノートを借りて帰ることになった。

前回はこちら

想像通りのきれいな文字と数字、几帳面な図が描かれている。
まさしく二階堂ワールドが展開されていた。

暫くノートを書き写していた僕は、ノートの隅っこに書かれた言葉に気がついた。
『固結びはほどけない』

本当にそのように書かれていたのだ。
ノートの下、余白に、出来るだけ存在感薄くして。

「固結びはほどけない」
と僕は口にしてみた。数学と何か関係があるのだろうか。

先生が「テストに出るぞ」と言ったとか?
もしかしたら暗号? 誰に? にしても不明な言葉だ。
他にも書かれていたりするのか。何のために。
いや、愚問だ。何せこのノートの持ち主はあの二階堂さんなのだから。

ノートを書き写すという目的はいつしか
彼女が書いた意味不明な言葉を探すことに変わっていた。

だがどんなに探しても新たな固結び的メッセージは見つからなかった。
もうこうなると勉強どころではない。同時に今日ノートを借りる際に
二階堂さんから言われた言葉を思い出した。

「わからないところがあったら何時でもいいから電話して。多分起きているから」

ちらっとスマホを見る。電話、かけるか。
いや、彼女のあの言葉は勉強についてわからないことがあったらという意味だ。
ノートに書かれた意味の分からない言葉について質問するという意味ではない。

スマホを持つ。LINEの『友だち』から二階堂さんを探す。
プロフィール写真は縁側で猫を抱く二階堂さんだった。
時間は8時半。まだかけても変な感じにはならないはず。しかし。……

「固結びはほどけない。…ま、明日聞けばいいか」

僕の勇気のなさには自分自身のことながら辟易(へきえき)する。
明日、明日の朝。僕は二階堂さんに尋ねるのだ。

「固結びの件について」

お問い合わせフォーム、Twitter、Facebookにてぜひご感想をお聞かせください。