「甘いもの好きなんだね」とショーケースに並んでいるクレープを見ている私に
タカナシくんは言った。
私の体の35%は甘いもので出来ていると言っても過言ではない。
「タカナシくんはどれが食べたい?」
「僕?」
「そう、僕以外に誰がいるの?」
「じゃあ、二階堂さんのオススメで」
そう来たかと思った私ではあったが、オーソドックスな苺のクレープに決めた。
私は苺も食べたいと思ったけど、最終的にはチョコバナナに落ち着いた。
この味は昔からよく好んで食べる。
食べると生きていた頃の父の姿を思い出す。
「タカナシくん、がっついていいよ」
苺のクレープを手にしたタカナシくんはどこから食べようかと
まるで初めてクレープを食べる人のように思案していた。
「がっつくって言ってもね、なんだかクリームが飛び出してきそうで」
「怖い? わかる! その気持ち私分かるわ。最初そうなのよ、
クリームおまけしすぎじゃないってぐらいに入ってるのよ、ここの」
タカナシくんは一口がぶりと食らいつき、
「うまい」と言った。私はそれを聞いて「でしょう」と思いながら
チョコバナナのクレープをがぶりと食らいついた。相変わらずうまいです。
「二階堂さん、鼻」
「え?」
「鼻の頭にクリーム」
「え、やだ」
「いいよ。ちょっと待って」
そう言ってタカナシくんはハンカチで私の鼻についたクリームを拭った。
「ありがとう。あ、ハンカチ」
「ハンカチ?」
「貸して」
「なに?」
「いいから」
そう言って受け取ったハンカチを私はカバンの中にしまった。
「洗って返すから」
「いいのに」
「よくないから」
「…わかったよ。じゃ、これ食べたら行きますか? UMA(未確認生物)探しに」
「ええ。日が暮れないうちにね」
日はいつか暮れ始める。ただ私はクレープをもごもご食べながら、
もう少し明るい時間が続けばいいのにと思っていた。