【短編オリジナル小説】猫も大概ヒマじゃない vol.6

スーパーのレジは複数人体制で、列によっては若干早い遅いがあって、
自分が並んでいる列の進みがいいと、『あ、今日自分はついているかも』とか
思ったりするプチ占いみたいなことをやってしまう。

今日はと言えば、どうやらあまりラッキーではないらしい。

前回はこちら

列に並びながらちらっと前の人のカゴの中身を見てしまう。
どうせ自分も後ろの人から見られていると思うとあまり罪悪感がないものだ。

ポテトチップスとポッキーとお酒数種。おむすび(10%割引)が3個。
具は梅に鮭におかかというオーソドックスな組み合わせ。
あとは、キャットフードか。

うちもキャットフード買ってたっけ。
ゴミ箱に捨てられた缶詰を見た記憶がある。

それでいつだったかリビングのソファに元妻と猫と並んでテレビを観ていて、
キャットフードのCMが流れた時に聞いたことがあった。

「あ、これ、いつも君が買ってるやつだろ?」
「違うわよ。これじゃないわ」
「嘘だよ。だって同じ缶がゴミ箱にあったもの」
「本当にこれだと思うの?」
「ああ、間違いないよ」
「買ってる私が違うって言っているのに?」
「じゃあ何が違うっていうのさ?」
「メーカーは同じだけど味も違うわ」
「そんな細かい」
「細かくはないと思うんだけど。そういうのが大事だと思うのよ私」

今考えると、そういう気持ちや意見のすれ違いが増えていったのが
離婚の原因になったんじゃないかと思う。

まさか人様の買い物カゴを盗み見てそんなことを思っているとは誰も思うまい。

「こちらのレジどうぞ」

という声を耳にして移動しようとした私だったが
それよりも早く動いた主婦と思われる女性に完敗する。

カゴの中から品物が溢れているのを見て、ああ、あの後ろに並んだら
まだまだ待つことになるなと思い、大人しく元の位置に戻った。

レジ待ちは戦争だ、とはよく言ったものだ。
誰が言ったかは忘れてしまったが。

買い物を終えてスーパーを出てきた私は、エコバッグと
借りたままになっていたビニール傘を持って、
近所の飲み屋「竹馬之友」に顔を出した。

カウンターではマスターの十河さんがグラスを磨いていた。
客は今のところ一人もいない。

「やあ、いらっしゃい」
「ご無沙汰しちゃって」
「どうぞどうぞ。あ、美冬ちゃん、まだ買い物から帰ってきてなくて」
「いえいえ。じゃあ、とりあえずビールで」
「出たね、とりあえずビール。いいの? ホントに?」
「いいですよ。お酒も弱くなっちゃって」
「飲んでないの、最近? 奥さんに晩酌とかさせてるんじゃないの?」
「すみません。自分、離婚、しました」
「…まじで?」
「はい。マジです」

マスターの苦笑いを見ながら、私はあと何回同じようなやりとりをするのだろうと考えた。

vol.7へ

お問い合わせフォーム、Twitter、Facebookにてぜひご感想をお聞かせください。