【短編オリジナル小説】君のことは好きになれそうにない 第2話(全12話)
「西原さんってどうにかならないんですか?」と始業間もなくして櫻井くんからメッセが飛んできた。どうにかなるんだったらもうしてるって話だ。 前回はこちら 私は冷静な顔をしながらそのメッセに返す。 「西原さんの企画としてスター…
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「西原さんってどうにかならないんですか?」と始業間もなくして櫻井くんからメッセが飛んできた。どうにかなるんだったらもうしてるって話だ。 前回はこちら 私は冷静な顔をしながらそのメッセに返す。 「西原さんの企画としてスター…
兎にも角にも人というのは相性だと思っているし、第1印象なのだと思う。仕事の上でも、恋愛の上でも。 「どうして私じゃだめなんですか」 「それは質問かい?」 「質問かもしれませんし自問かもしれません。『どうして私じゃだめなん…
偶然もいうなれば必然の一つだと誰かが言っていた。 それは逆も然り、必然もまた見ようによっては偶然。 前回はこちら 私とタカナシくんが教室で隣り合い、関係性を改める日が来るなんてことは数か月前には想像すらできていなかった。…
時が経つのは早い。二階堂さんに告白してしまった僕は、その回答を待ち続けていた。もう2週間になる。 前回はこちら 「二階堂さん、ねえ、二階堂さん」 僕は目の前をとことこと歩く彼女を追いかけつつ、話しかけた。 「タカナシくん…
電車に乗っていた時から気づいていた。雨が降っていることに。 前回はこちら 車窓をこれ見よがしに叩いた大粒の雨。確かに私はビニール傘を持っていたはずなのだ。いつかどこかのコンビニあるいはどこかのキオスクで買ったものを。しか…
放課後の教室。私は夏目漱石の『こころ』を読みながら、時折夕焼けをちらちらと眺めていた。集中力の欠如、この上ない。 前回はこちら 今から数十分前、熊井さんからLINEが来た。短いメッセージだったけれど、「どういう意味?」と…
放課後、僕は熊井さんに屋上に呼び出された。さっきのことを怒っているんだろう。そして二階堂さんはそのことを怒っているんだ。 前回はこちら 9月になって日が落ちるのが早くなったように感じた。空が暗くなればなるほどに街の明かり…
「話しましょうか」と言われて暫く経ち、ただただ沈黙が続くので私は「コーヒーでも入れようか」と言ったが、彼女は短くこう答えた。「私、これでも死んでるからさ」と。 前回はこちら 墓穴を掘るというのはこういうことを言うんだろう…
告白の回答を今欲しいと年下の女の子からせがまれて、私は「わかった」と答えた。その答えに目の前の少女は納得してくれなかった。「わかった、…ってなんですか?」 前回はこちら 「え、だからその話はわかったってことでわかってもら…
9月。つまりは8月の長い夏休みも終わったことを意味する。 前回はこちら 席替えがあろうがなかろうがそんなことは大したことではなかったのに、いざ席が代わって得体の知れない交流もない女子男子たちに囲まれ、タカナシくんが遠くに…
9月になり、授業も始まり、席替えがあり、僕らに日常が戻ってきた。 前回はこちら 席替え。それは生徒にとっては一大イベントに変わりない。それを楽しみにしている生徒はどれだけいることだろうか。だが、席替えによって寿命を縮める…
「元奥様がこんなところで何をされているんですか?」と美冬ちゃんは言った。明らかに喧嘩腰である。 前回はこちら 「こんな所でって言われても、元々私もここに住んでいたからねぇ」と余裕を見せる美津。 その余裕感にイラッとさせら…
とても居づらい。生きた心地がしない。そんなシチュエーションってなかなか経験することはないなと思いながら興味深そうに美冬ちゃんを見ている美津を見て思っていた。 前回はこちら そんなことを冷静に思っているのは余裕がある証拠だ…
駅の近くには神社があり、夏も終わりのこの時期に夏祭りが毎年開催される。子供の頃は父が連れて行ってくれた。今の私はもう子供ではない、いや子供だとしてもそこまで幼いわけでもないから、だから私は1人で出かける。 前回はこちら …
夏休みも残り2日となった日。二階堂さんからLINEが来た。 前回はこちら 『暇だと思うんだけど』という書き出しで始まった二階堂さんのメッセージ。余程彼女も暇を持て余して持て余しきれなくなって連絡を送ってきた様子。僕はあく…
転勤の話が会社であった日の帰り、家に帰宅すると明奈は出てこなかった。恐らく客が来ていたからだろう。「あの、何してるの、ここで?」とソファに座っている元妻の美津に言った。 前回はこちら 「チョット待って、ほんとに何事、これ…
夏休みが終わろうとしている。ってことに気づいた朝。それなりに楽しかった。「それなり?」って、いや、去年の数十倍も今年は楽しかった。でもこれで終わりでいいの、私。 前回はこちら 家族で旅行をした記憶は正直言ってないけど、そ…
「宿題なんてこりごりだ」と僕が何度言ったとしても二階堂さんも熊井さんも「OK」とは言ってはくれず、僕の二度と戻っては来ない青春の1ページはただひたすら勉強によって消費されていった。 前回はこちら 気づけばもう夏が終わる。…
私は出社すると上司の安西さんに手招きされて会議室に。はて、何かやらかしただろうか。 前回はこちら 「転勤ですか!?」 「しーーー。まだ決まったわけじゃないんだから。ここ防音じゃないから」 「にしても突然過ぎるなと思いまし…
勉強が苦手な人がよく陥ることのひとつに、机に向かっているだけで蕁麻疹が出るとか言い始める学生。タカナシくんがふらふらと立ち上がって出ていくのを見送りながらそんなことを思った。 前回はこちら 私は付箋を握り潰すと、筆箱の中…
図書館に着いた僕たちは冷房による恩恵に浴し、ハンカチで汗を拭った。 前回はこちら 僕は苦手な数学のワークブックを開き、二階堂さんは歴史、熊井さんは英語と全く揃わない感じはなんだろうか。これでは机を一緒にしているだけではな…
「どうして私だけじゃダメなの?」と言った明奈は今、目の前でソファに腰掛け、2時間ドラマの再放送を見ている。のんきなものだ。 前回はこちら 「それって面白い?」 「これ? 別に、面白いから見ているわけじゃないわ」 「じゃあ…
家で飼っているネコのハミルトンとベンジャミンに餌をやって家を出た私は、電車に乗って待ち合わせをしている駅へと向かった。きっとあの子は彼のことを…… 前回はこちら ガタンガタンと規則正しいリズムを刻んで電車が進む。私はぽつ…
夏休み3日目。 僕は宿題を詰め込んだカバンを地面に置いて、まだ来ぬ人々を待った。 前回はこちら 猛暑。猛烈に暑いと書くわけだが、駅の改札を出たところがまだ日陰であるにはあるけど、暑いことに変わりはない。ああ、冬が恋しい。…
「私からサヨナラって言ってあげようか?」と明奈は言った。その思い出は全く色褪せずに私の中に在り続けた。 前回はこちら その時、明奈と住んでいた場所は今とは異なるわけだが、彼女はソファに座って窓の外の暗闇を見つめてそう言っ…
あの日に出来た傷は未だに私の体に残っていて、擦り傷ってそんなに治るのが遅いんだっけ、これが年を取ったということなのかしら、と馬鹿なことを考えながら通学する私。 前回はこちら 教室に入ると真っ先に目に飛び込んできたのはタカ…
梅雨が明けた。雨に濡れたチョコの入った袋はなんだか上げるには忍びない程度に汚れて、ボロボロになっていた。……雨め。 前回はこちら 登校の準備を一通りして、カバンにチョコをそっと、これ以上包装紙が破れないように静かに入れた…
かき氷を食べて帰宅した私をにたにたと笑いながらソファに座って待っていたのは、本当はお墓で眠っていないといけない明奈だった。 「おかえり」 前回はこちら 「ただいま」とは言ったものの恐らくその笑顔はすべてを見通しているので…
バイト先のコンビニに出勤すると店長がにやにやして立っていた。朝から気持ちが悪い、もとい気味が悪い。 前回はこちら 結局昨夜は「どっきり」のプラカードを持った神様もしゃもじを持ったヨネスケも乱入してこなかったので、俺には解…
「私の事、好きでしょ」言ってしまった。後悔するのは私じゃないか。 前回はこちら タカナシくんに家まで送り届けられ、当然のことながら誰もいない家。電気をつけて服を着替えて、タオルを頭に巻いて、先程のことを冷静になって考える…
二階堂さんを送り届け、帰宅した僕は一人になって身悶えた。なんて恥ずかしい真似を平然としてしまったのだろうか。 前回はこちら こんなことをするつもりはなかったのにという後悔の嵐が僕の中で吹き荒れる中、窓の外の雨も同調するよ…
蝉の声がうるさくなったが、私の耳は美冬ちゃんの言葉を捉えてしまっていた。「どういう意味?」などと聞いてしまったけれど、どういう意味なのか理解しているつもりだ。そういう卑怯さを自分の行為ながら情けなくなる。 前回はこちら …
雨の中を走っている自分は一体なんだろうと思う。 前回はこちら 傘は何処に置いてきたんだろう。こんな雨なのに。見知らぬ人が私を見ている気がした。傘を持ちながら、持っていない私を笑っている気がした。 雨。きっとまだやまない。…
雨の中、熊井さんに連れてこられたのは隣の駅のとあるチョコレート屋だった。 前回はこちら 「これもらったらいちころよ」とおかしなことを言う熊井さんに対して、僕は苦笑いで手にしたチョコの入った袋を鞄にしまって外へと出た。まだ…
明奈の墓前に着いた私たちは、お墓の掃除をして、水を墓石にかけて、線香をやった。 手を合わせ、ふと考えてしまった。自分は何を彼女に語りかけようとしているのかと。 前回はこちら 「ねえ、お兄さん」 「うん」 「何を話したんで…
雨か。放課後。窓外で誰の許しを得てざーざー降っているのかは知らないけれども、私は雨が好きだった。 前回はこちら 子供の頃から雨になると傘もささずに家を飛び出したものだ。今はしないけれど。 テストも終わり、タカナシくんから…
梅雨だから雨が降る。僕は雨が嫌いだ。何故か理由もなく悲しい気持ちになるから。 前回はこちら 期末試験はついに始まった。始まったからと言っていつものように手応えがなかったわけじゃない。数日とは言ってもかなり範囲を絞り込んだ…
確かに、今美冬ちゃんが手にしている麦わら帽子は彼女の姉であり元カノの明奈に買ってものだ。申し訳ない程度の大きさのリボンがついている。 前回はこちら 「ねえ、お兄さん。この帽子にまつわるお話してくださいよ。霊園に着くまでに…
日曜日。私はタカナシくんへの講義内容を考えつつ、担任の境先生の言葉を思い出す。 「二階堂、最近なんだか楽しそうだな」 前回はこちら 職員室に日誌を渡しに行くと、それを受け取った境先生は何気なく言った一言だったが私はそんな…
「ごめんなさい。二階堂さんが何を言っているのかわかりません」 前回はこちら 僕と二階堂さんは期末試験の勉強をすることになり、土曜日学校のある駅から5つ隣の駅にあるカフェに集合した。カバンの中には勿論教科書とノート。 不思…